紀元前8000年ごろ、中東のコーカサス地方で生まれたと考えられているワインは、古代エジプトやメソポタミアで発展したのち、フィニキア人によって古代ギリシャへ。そして古代ギリシャからローマに伝わると、ローマ帝国の拡大と共にヨーロッパ全土へと広まりました。
こうしてヨーロッパ全土に広がったワインは、キリストの血とされ宗教的にも重要な意味をもったことで、ヨーロッパの文化にさらに深く根ざしていきます。
古代エジプト、ギリシャ、ローマ、中世から現代へと、長い歴史の中で培われてきた伝統文化。そんな側面をもつワインですが、実は、時代に合わせて変化もしているんです。
今回は目が離せないダイナミックに変化するワイン産地をご紹介します。
キャンティ
ワイン通にとって変化するワイン産地と言えば、イタリア・トスカーナ州のキャンティではないでしょうか。拡大し過ぎた生産地域と伝統的な生産地域の分離、ブレンドに関する度重なる法改正、新格付けの導入など、これまでも時代に合わせて変化してきました。
そして2021年、業界を沸かせた新たなニュースが「村名表示の導入」です。キャンティ・クラシコに、以下の11の地域名が導入されることになりました。
カステッリーナ(Castellina)
カステルヌオーヴォ・ベラルデンガ(Castelnuovo Berardenga)
ガイオーレ(Gaiole)
グレーヴェ(Greve)
ラモーレ(Lamole)
モンテフィオラッレ(Montefioralle)
パンツァーノ(Panzano)
ラッダ(Radda)
サン・カッシャーノ(San Casciano)
サン・ドナート・イン・ポッジ(San Donato in Poggio)
ヴァリアッリ(Vagliagli)
現時点では最上位の格付けグラン・セレツィオーネのみの限定的な導入からスタートする予定ですが、キャンティ・クラシコとリゼルヴァにも拡大する構想だそうです。
ブルゴーニュのように村ごとの味わいを比較して楽しめる日も近いかも知れませんね。そう遠くない未来に単一畑も導入されるのではないかと目が離せません。
リオハ
躍進するスペインワインを代表する産地、リオハも今まさに変化している産地です。
伝統的に熟成を重視するリオハでは、ホーベン、クリアンサ、リゼルヴァ、グラン・リゼルヴァといった熟成年数による格付けが以前からありましたが、近年の「その場所らしさ」を求める愛好家の需要に応えられる制度とは言えませんでした。
そのため生産者の不満が高まり、署名運動にまで発展した結果、2019年から単一畑(Vinedo Singular)と村(Vinos de Municipio)、地域(Vinos de Zona)の法的表示が認められるようになりました。
この単一畑の規定には、1haあたりの収穫量制限や手摘みによる収穫、圧搾率など厳しい規定があり、従来のリオハの規定と比べると生産量がかなり絞られますが、導入についてはおおむね歓迎されているようです。
しかし、リオハ・アルタ、リオハ・アラベサ、リオハ・オリエンタルといった地域よりも、さらに小さな単位である村や単一畑をどれだけの人が認識し、差別化できているのでしょうか。マーケティング的な観点での問題が山積しています。
今後、リオハ原産地委員会がどういった動きを見せるのか注目です。
ボルドー
世界最高のワイン産地、ワインの女王、飲む宝石。ボルドーを飾る美辞麗句は枚挙にいとまがありません。
圧倒的な知名度を誇るボルドーの揺るぎない地位と名声は、変化という言葉とは無縁に感じられますが、進化し続けているからこそ保てているのかも知れません。
世界最高のワイン産地は、サスティナビリティに対する意識も最高峰です。ボルドーの近年の変化と言えば、オーガニック栽培への転換でしょう。
大西洋の影響を色濃く受けるボルドー地方は湿度が高く、病害が発生しやすいので、一般的にオーガニック栽培が難しい産地と言われています。そのためビオディナミやオーガニック栽培を導入している生産者は、シャトー・ラトゥールやシャトー・ポンテ・カネなど、極一部に限られていました。
そんな状況がここ数年で大きく変わりつつあります。
ボルドー左岸のシャトー・ラフィット・ロスチャイルドは、オーガニック栽培への全面転換を昨年発表。シャトー・ディケムもすでに100%オーガニック栽培と一部でビオディナミも導入しており、2022年からオーガニック認証が認められる見込みです。
右岸ではポムロルが、フランスで初めての除草剤の使用を全面禁止した産地に。お買い得ワインの宝庫コード・ド・ブールの生産者組合は、メンバー全員がフランス農林水産省による環境認証を受けることを義務化する方針を決定しました。
ボルドー=オーガニックワインという時代が迫っているのかもしれません。今後も続々と有名シャトーがオーガニックやビオディナミに完全転換すると思うと楽しみな産地です。
まとめ
ワインの世界は伝統を重んじるイメージがありますが、このように時代に合わせて柔軟に変化している部分もあるということがわかります。今回ご紹介した事例は新しいものが多く、まだまだ実際に見かけることは少ないですが、頭の片隅に置いておいてください。
数年後にふと気が付くと、ラベルに見慣れない言葉が溢れているかもしれませんよ。進化していくワインの世界をお楽しみください。