第54回 アンダーライング ~酸味の味わいにおける在り方

奇怪な用語が飛び交うワインテイスティング。フルーツや花ならまだしも、スパイスに、ミネラル、焦げ香??しまいには動物臭?!ですが、これにはきちんと意味があるのです。ソムリエ目線で、毎回難解なテイスティング用語や表現などを解明!

あなたもイメージを膨らませてテイスティングに挑戦してみてはいかがでしょうか。

今日のワイン造りにおいて、ブドウの成熟度というのは安定的に高くなりました。それはブドウ、栽培における理解の深まり、テクノロジー、気候変動による気温の上昇などが理由として挙げられます。もちろん、造り手の絶え間ない努力も欠かせません。

その高い成熟度はテイスティングにも少なからず影響を及ぼしています。草木や野菜、いわゆるヴェジェタルといった香りは未熟を示すとしてネガティヴな語彙となり、避けられるようになりました。

またこれまでその品種の典型的とされていた香りが変わってゆきました。ソーヴィニヨン・ブランといえば、柑橘にフレッシュハーブや芝生、“ネコのおしっこ“とかつては表現されました。現在、世界の多くのソーヴィニヨン・ブランでそのような語彙が使われることはなくなりつつあります。

味わいにはさらに影響を与えました。甘み、酸味、苦味など味覚要素よりも、“Mid-palate”(口中の要素、食感)が注視される様になり、「ふくよか」「豊満」「グラマー」「甘美」といったヴォリューム感、つまりブドウの成熟度の高さを示す語彙が頻発されるようになりました。

同時に、軽視も、重視も、されるようになったのが酸味です。コンクールのソムリエも、執筆を手がけるテイスターも、より印象的な特徴を伝えようとするがあまり、酸味についてはあまり触れないコメントをよく耳に、目にする様になりました。一方で非常に多彩になったと感じるのが酸味の表現です。

Underlying =根本的な、根底にある、といった意味を持ちます。隠れた、潜んだ、また表面の下にある、といった意味を持つ、酸味の表現の一つです。

酸味の表現というと、「爽やかな」「溌剌とした」「ストレートな」といった語彙が一般的ですが、このUnderlyingは酸味の味わいにおける在り方、それがもたらす味わいへの影響を表す本質的な表現です。

Underlyingが表現されたワイン

ゲヴュルツトラミネール/トリンバック2017は、アロマティックながら落ち着きを感じます。加えて、繊細かつニュアンスに富んでいます。

ライチ、マスカット、大変フラワリーで白バラやエッセンスオイル、白檀のような印象もあり、さらにコリアンダー、クミン、カルダモンとスパイシー。多層的でまとまりがあります。

味わいはドライかつメロウな口当たりで、残糖分と熟度の高さがもたらすデリケートな甘味が感じられます。果肉感のあるトロリとした食感とともにパンジェント(ピリッとした辛み)なタッチ。

ボディを下支えする伸びやかな酸味は余韻にかけて全体に繊細さと透明感を与えます。巧みに造りあげられた、豊かさとまとまりのあるワインです。

このワインを口に含むと誰もが、その甘み、豊潤さ、立ち上がる芳香に心奪われることでしょう。Underlying acidity、コメントでは「下支えする酸味」と訳していますが、もっと重要な存在です。

口中をヴォリューム感が支配するなか、その味わいは酸味で、はじめは目立ちませんが、支えられています。その酸味は後半にかけて、伸びてゆき、その存在感を増してゆき、余韻では終始、甘みを伴った豊かな味わいと、同レベルのバランスを保つのです。

「酸味はワインの背骨であり、腸のようなものです。 酸味はワインに輝き、長期熟成の可能性、香りや味わいの安定、引き締まったボディ、余韻の長さをもたらすのです。 」、本連載第12回(2014年1−2月号)で酸味について、このように書きました。

Underlying acidity、ワインの味わいの本質を表す重要な表現の一つです。

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トリンバックは1626年に創業し、4世紀13代に渡って歴史と伝統を育んできた、アルザスきっての名門ワイナリー。ゲヴュルツトラミネールは豊かで多彩なアロマと、力強く複雑なブーケを持つワイン。

食前酒として、または魚やスパイスで味付けされた肉、エスニック料理と好相性です。また、5~7年の熟成にも耐えうるポテンシャルを備えているのも魅力です。