奇怪な用語が飛び交うワインテイスティング。フルーツや花ならまだしも、スパイスに、ミネラル、焦げ香??しまいには動物臭?!ですが、これにはきちんと意味があるのです。ソムリエ目線で、毎回難解なテイスティング用語や表現などを解明!
あなたもイメージを膨らませてテイスティングに挑戦してみてはいかがでしょうか。
どの世界にもある「光と影」、ワイン産地にもそれは存在します。
著名なアペラシオンの影に数多くの産地が「地味な存在」として、引き立て役に回ってきました。特にそんなオーセンティックなワインが優勢だった1990年代は。
「黄金の丘」、「特級街道」を誇るブルゴーニュには燦然と輝くアペラシオンがひしめいています。ワインの受験勉強に強いられた人たちも、ブルゴーニュを覚える時は心ときめいたことでしょう。
ジュヴレイ、シャンボール、ヴォーヌ・ロマネ、ムルソー、ピュリニイ・モンラッシェ、、、そんなスターの脇を固める産地は「プティ・アペラシオン」と呼ばれました。法律上は同レベルの格付けでありながら、不当な扱いといえるでしょう。
マランジュは1988年にAOCに昇格、200haほどの畑はコート・ド・ボーヌの最南端、コート・ドール県のはずれという立地から品質云々をさておき「プティ・アペラシオン」の仲間入りとなりました。
その誇らしい村名をラベルに表記するより、「Bourgogne」とする方が売れ行きがよかったのです。マランジュは、ボディやスパイシーさを与える役目を背負って、ブレンドに回されることも多かったそうです。
アップデートしたワイン
マランジュ ルージュ ヴィエイユ・ヴィーニュ 2017 / マトロ は、クリーンで透明感があり、芳香豊かな香りです。チェリーやラズベリー、大変フローラルで牡丹、スミレ、ゼラニウムが華やかさと気品すら感じさせます。キャラウェイやクミンといったスパイスも心地よいアクセントなっています。
ディテールもあります。ダージリン、石灰岩や粘土などの土っぽさには鉄分や「冷めた炭」のような印象も感じられます。味わいは流れるようなしなやかさから始まり、繊細かつ直線的な酸味がフレッシュ感とテンションを与えつつ、程よいアルコール感(13%)ときめ細かな渋みと調和します。
伝統的なスタイルを継承しながらも、洗練が見事にもたらされ、精巧な造りを彷彿させます。6世代にも渡る歴史あるドメーヌに新世代が新しい風を吹かせているという現代的な継承がワインに表れています。
女性ヴィニュロンがすっかり珍しくはなくなったブルゴーニュ。以前はそんな彼女らによるワインは力強く、堅固な印象がありました。今日の新世代女性ヴィニュロンは、華やかで、しなやかなワインを造っています。
コート・ドールの村名クラス(ヴィエイユ・ヴィーニュとはいえ)で、これほどの品質を持つワインを「プティ」などと呼ぶことは認識不足としかいえないでしょう。マランジュがジュヴレイと並んだとは言いませんが、「影」ではないことはワインが示しています。
あらゆることに共通することですが、ワインの世界はアップデートが本当に必要です。5年以上前の概念や認識はとっくに古くなってしまっていると自覚しなければならない。マランジュはマランジュとして、ピノ・ノワールの優良なテロワールとして洗練を遂げている、そんなテイスティングになりました。
今回紹介したワインはこちら
フランス国内のレストラン関係者の間で評価が高い、ムルソーの名門マトロ。
こちらのマランジュは、コート・ド・ボーヌ最南端に位置する村で、マトロは2012年にそのポテンシャルに魅かれ畑を購入。凝縮感のある赤系果実の果実味に溢れたフルーティなスタイルが魅力です。