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ワインが飲みたくなる映画『フレンチ・キス』

葉山 考太郎
葉山 考太郎
葉山考太郎のコラム
公開日:2021.2.17
更新日:2021.2.17
今回、ご紹介する「ワインが飲みたくなる映画」は、これまでの映画のように、ワインは大きく映りません。ラベルもほとんど見えません。ブドウ畑も少し出てくるだけですが、見終わったあと、強烈にワインが飲みたくなります。
また、もっと愛を深めたいと思っている二人にも最適です。そんな二人に必要なのは、小さなPCとシャンパーニュが1本だけ。PCの小さい画面で映画を見ると、必然的に二人の「物理的な距離」が近くなります。
また、ワインを飲みながらこの作品を見ると、最後にハッピー・エンディングを迎えるころには、二人のムードが完全に「熱い恋愛モード」プラス「ワイン大好き」に切り替わります。
言い出しかねている二人には、この映画が「決定的な最後の一押し」となることを保証します。別の言い方をすると、この映画は「愛のリトマス試験紙」です。
目次

激動の1995年

『フレンチ・キス』は1995年の作品で、日本は1月の阪神淡路大震災、3月のオウム真理教事件という暗い出来事で始まった年です。
その後、明るいニュースが続きます。5月には、田崎真也さんが世界最優秀ソムリコンクールで優勝し、日本に大きなワイン・ブームが起き、7月には、LAドジャーズへ移籍した野茂英雄が日本人初となるオールスター戦に選ばれただけでなく、11月にはやはり日本人初の快挙である新人王になります。
同じ11月に、この甘くて切ない映画が封切られました。まさに、激動の1995年。この映画も激動のストーリーが連続します。

ジェットコースターのようなストーリー展開

本作品は、典型的なラブ・コメディーです。メグ・ライアン扮するカナダ人の歴史教師のケイトと、ケヴィン・クラインが演じる怪しいフランス人、リュックの二人を中心に話が進みます。
この展開が非常に速く、一歩間違えると、ドタバタ喜劇になるんですが、必然性のある偶然が次々に起こり、また、あちこちにさり気なく、でも、はっきりと伏線が張ってあり、それが順番にキレイに回収されていくので「なるほど、そういうことか、そう繋がっているのか」と何度も感心し、スッキリします。
これは、脚本家の腕ですね。ジェットコースターのような「設計しつくしたレールの上のスリル」をお楽しみください。

あらすじ

ストーリーは非常に込み入っていますし、あまり詳しく書くと、見る楽しみが減るのでざっと書きます。
トロントに住んでいるケイトは、医者のチャーリーと婚約中。結婚して二人が住むのにピッタリの家も見つけ、後は手付けを打つばかり。ケイトにはコツコツ貯めた貯金がありました。
そんなある日、チャーリーはパリの医学学会に出席し、そこで「運命の女神」と出会います。チャーリーと「パリの女神」は、五日後に結婚することになり、カナダにいるケイトに婚約破棄の電話をします。もちろん、ケイトは大パニックに。
真相を確かめるべく、また、チャーリーを取り戻すため、ケイトはパリへ飛びます。トロント発パリ行きの飛行機便で隣に座ったのが、物凄く怪しいフランス人のリュックです。
リュックは、盗んだ高級高価なネックレスとブドウの苗木をフランスに密輸しようとします(奇妙な組み合わせですが、ちゃんと理由があり、しかも、ハッピーな結末になります)。
リュックは、ケイトのバッグの中に二つの密輸品を隠し、シャルル・ド・ゴール空港の税関で、ケイトは「申告物なし」の列に並んで、無事通過します。
で、ケイトのバッグの中のネックレスとブドウの苗木を取り戻すため、リュックはケイトの後を追って行動を共にし、南仏のカンヌまでドタバタ旅行が続くのです。
ケイトは、心変わりしたチャーリーを取り戻したい一心だし、リュックは、苗木とネックレスを取り戻せばそれでいい……。
そんなバラバラな思いの二人が、一緒に行動したり離れたりし、最後にお互いの気持ちに気が付くのですが、この間のドタバタのプロットや伏線が見事に決まっていて、ヘェーと感心します。この二人の気持ちをくっつけたのが、ワインなのです。

最大の見どころ

上映時間が1時間51分の本作品で、感動がマックスになるシーンは、上映開始の1時間7分37秒から始まります(二人でこの映画を見る場合、この時間に合わせて、ほろ酔いになるのが理想です)。
ある意味、ここから3分間のためにこの映画があると思っていいでしょう。今までのドタバタが、急にしっとりモードになります。
ケイトは、チャーリーの結婚式を潰して自分に振り向かせようとパリから夜行列車で挙式予定の教会があるカンヌへ向かいます。もちろん、ネックレスを取り戻したいリュックも、偶然を装って列車の向かいの席に座ります。
夜が明けて、ケイトは食堂車で朝食のチーズを食べすぎてお腹を壊し、南仏のマルセイユ近くのラ・ラヴェイユという田舎駅でリュックと一緒に途中下車してしまいます。プロヴァンス地方のど真ん中。次の列車まで3時間以上も待たねばなりません。
実は、その駅はワイナリーをしているリュックの実家の最寄り駅でした(ここは、少し出来すぎですが……)。
時間潰しに実家へ寄ると、素朴で人情に篤い田舎の人は、パリからリュックが婚約者を連れて戻ってきたと思い、ケイトの歓迎パーティーを開いてくれます。そんな温かい気持ちに心が和んだケイトはリュックに、「あなたの部屋が見たい」と言います。
ここから、パーティーの賑やかなシーンが急転して、ロマンチックな雰囲気になるのです。

リュックの部屋の隅に木箱があり、
「これ、なに?」

「昔、学校で作った作品だ」

「なんなの?」
と言って箱を開けると、大中小の瓶がキチンと並んでいます。

「今から説明する。その前にワインを1杯飲んでくれ」
と言われ、ケイトは赤ワインを飲みます。

「どうだ? 味を表現できる?」

「いい赤ワインね」

「具体的に」

「大胆でキレがいいけど、華やかさに欠けるわね。私みたい」

「それでいい。ワインは人間と同じで、環境に左右される。土地柄によって個性が違う」
と言いながら、リュックは木箱から瓶を1本取り出し、栓を抜きます。

「嗅いでみて」

「ローズマリーね」リュックは、次の瓶を開けます。

「キノコね」

「鋭い。この瓶は、カシス、これはミント、こっちがラベンダー。どれも自然の恵みだ。もう一度ワインを飲んでみて。今度は目を閉じて」

「スグリの香りがするわ。ほんのりとラベンダーの香りも」
感覚の鋭いケイトは、美味い・不味いだけではなく、ワインを分析的に飲んでいきます。

この大中小の瓶は、リュックが学校で作った「ワインの香りのサンプル・キット」で、いわゆる「ネ・デュ・ヴァン」でした。
これが「ネ・デュ・ヴァン」であることが分からないと、このシーンの素晴らしさが半減するでしょう。ワイン愛好家には必見の場面です。
リュックには、小さいころから自分の畑でブドウを育ててワインを造りたいとの強い気持ちがあったのです。
リュックが父親から相続したブドウ畑は、へべれけに酔っぱらっているときに、弟のアントワーヌと1回勝負のポーカーで負け、畑も車も愛犬も全て取られてしまいます。弟はワインを造っていますが、ワインは一切口にしません。ワインが好きではないのです。
リュックは自分で素晴らしいワインを造りたい。そのために、カリフォルニアの苗木を密輸し、フランスの品種と掛け合わせて上質のブドウを育てようとしたのです(ここに、ネックレスが絶妙に絡みます)。

その他の見どころ

この映画は、明るく楽しいコメディーに見えて、細部まで実に巧妙に作ってあります。極上のミュジニーのように、複雑でエレガントでロマンチックです。上記の「ネ・デュ・ヴァン」のシーンの他にも、見どころはたくさんあります。
例えば、落ち着いたトロント、賑やかなパリ、鄙びたプロヴァンスの田舎、ゴージャスなカンヌの雰囲気が、実に見事に出ています。
特に、パリの風景には、華やかな雑踏と同時に、「人生って、切ないね」との哀愁も、ジェロボアム・ボトル分漂っていて、監督の腕の確かさがうかがえます。
リュックを演じる俳優、ケヴィン・クラインは純粋培養のアメリカ人で、しかも中西部のミズーリ州出身です。フランスとは縁がない環境ですが、映画の中のフランス語とフランス語訛りの英語が完璧で、驚きます。相当、稽古をしたんでしょうね。さすが、トニー賞を3回も受賞した名優です。
また、素晴らしい脇役が揃っており、リュックを追うカルドン刑事役のジャン・レノや、リュックの詐欺師仲間であるボブを演じるフランソワ・クリュゼも名演技を披露します。
優れた監督、素晴らしい脚本、俳優の名演技の三つが揃えば、低予算でも深く印象に残る名画が作れるという好例です。全世界での興行収入が100億円を越えたのにも納得します。
初めは、二人の気持ちはバラバラでした。ケイトは、「パリの女神」からチャーリーを取り戻して結婚したいし、リュックは苗木とネックレスだけを追っている。そんな二人が、五日後にはお互いに惹かれあう仲になります。
この気持ちの移り変わりが見事に表現されており、見ている人は思いっきり感情移入してしまいます(その意味で、二人でこの映画を見るのは非常に効果的です)。
特に、上映開始57分03秒のカンヌへ向かう夜行列車のシーンが秀逸です。列車の狭い座席でケイトがバッグを枕に寝ています。
向かいの席にいるリュックは、バッグの中のネックレスを取り戻そうと、ケイトの首に腕をそっと入れた瞬間、寝ぼけたケイトがリュックの首に腕を回し、「ねぇ、チャーリー」と言いながら、リュックにキスをします。
このあたりから、リュックの気持ちが急激にケイトへ傾くのです。物凄く、甘くて切ない場面ですね。見ている人は、100%感情移入してしますので、このシーンの前にも二人でワインをタップリ飲むといいでしょう。
リュックのワインに対する気持ちが熱くて純粋なのもワイン好きにはたまりません。最初は小悪党に見えるリュックですが、行動のすべては「ワインに対する愛」と「素晴らしいワインを造りたい熱意」が原動力になっています。
この映画を見終わると、間違いなくワインが飲みたくなり、そしてワインがとても美味しく感じるはずです。ひょっとすると、自分でワインを造りたくなるかもですね。
この映画は、愛を深めたい二人に最適ですし、ワインが飲みたくなりもっと好きになる映画です。是非、ワイングラスを片手に二人でご覧ください。
1時間51分後には、二人はケイトとリュックになります。逆に、この映画を見て、何も起こらなければ、50年経っても何も起きないでしょう。その意味では、「愛のリトマス試験紙」的な映画です。
葉山 考太郎
葉山 考太郎

シャンパーニュとブルゴーニュを愛するワイン・ライター。 ワイン専門誌「ヴィノテーク」、「神の雫(モーニング)」等にコラムを執筆。 2010年にシャンパーニュ騎士団オフィシエを受章。 主な著書は「クイズでワイン通」「今夜使えるワインの小ネタ(以上講談社)」、「30分で一生使えるワイン術(ポプラ社)」など

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