vol.9 郷土料理と名産を知る

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ワインペアリング
公開日 : 2021.2.18
更新日 : 2023.7.12
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約1年間、続けてきました本連載も残すところあと二回となりました。そして今回がペアリングの真髄、つまりハイライトとなります。

少し長くなりますが、どうぞお付き合いください。

ペアリングには大きく三つのセオリーというかタイプがあります。

1. 料理の味や素材の強さ、風味に寄り添ったワインを合わせる

2. 料理とは相反する味、風味のワインを合わせる

3. 郷土料理とその地元のワインを合わせる

目次

料理の味や素材の強さ、風味に寄り添ったワインを合わせる

軽めの料理に軽快なワイン、緑鮮やかな料理にグリーンノート(ハーブや青物野菜、フルーツの香り)のワイン、香辛料の効いた料理にスパイシーなワイン、という具合です。

色を合わせる、というやり方もあります。

野菜がふんだんに盛り込まれた料理にグリーン帯びた若々しいワイン、焼き色をしっかりつけたグリル料理に黒みをおびた濃い色調のワイン、褐色に煮込んだ料理にオレンジ〜レンガ色がかった熟成したワイン、となるのですが、これはかなりざっくりとした考え方で、これまでお話ししてきた主素材(第5回)、風味付け(第4回第6回)、ブリッジ食材(第8回)などによっては、必ずしもよく合うとはいえないことがあります。

格を合わせるのもポイントの一つです。

料理は家庭料理、郷土料理、高級料理に分けられると古くから言われています。その名の通り家庭の味、日々の食卓には2,000円以下のデイリーワイン、より良い素材、手間をかけた、おもてなしの料理には2,000円以上のプレミアムワイン、レストランで供されるプロの手による贅沢な料理にはさらに上のクラスのワイン、というものです。

これは結構、的を射ていて、合わないとは言いませんが、料理とワインの格が合っていないと、どこかギクシャクした関係になってしまいます。

以上のような合わせ方はソムリエが基本としているもので、ペアリングというとまずここを起点として考えてゆきます。まさにソムリエのセオリーです。

料理とは相反する味、風味のワインを合わせる

濃厚な料理に軽快なワイン、スパイシーな料理に甘口ワイン、複雑な風味の料理にフルーティーなワインといったペアリングです。

これはあまりお勧めはしません。個人的に楽しむ分にはそれも一興ですが、人には伝わりにくいものです。納豆に砂糖をかける人がいます。これをみんなが好むかというと別の話です。

ただソムリエとしてはいくつかの例を引き出しとして持っておくとよい場合があります。霜降りの牛サーロインに、「甘口のワインが好きです」とリクエストされることもあるからです。

以前勤めたトゥール・ダルジャンというレストランでのエピソードですが、鴨のローストに血液とレバーを煮詰めた伝統料理がありました。サンテミリオンやポムロール、シャンベルタン、コート・ロティが定番でした。

あるテーブルで「フルーティーな白」というリクエストをいただきました。苦し紛れにアルザス・ゲヴュルツトラミネールをご用意しました。それがそのお客様に好みに大いにはまり、大変喜んでいただきました。こんなことも起こるのです。

また、ペアリングコースではいくつもの組み合わせをご用意するわけですが、どれも同じような組み合わせでは、単調になってしまうので、間に一つ、この相反する相性をはさむことで、抑揚がつけられます。

とはいえ、私はあまりトライはしていません。

郷土料理とその地元のワインを合わせる

これまでご愛読頂いた方は、「石田はこの組み合わせが好きなはずだ」とお気づきかもしれません。第6回の「風味付け」前回の「ブリッジ食材」でも、この同郷どうしのペアリングを紹介しています。

「当たり前過ぎて、つまらない」と言うソムリエは少なくはありません。お客様を驚かせるようなペアリングを日々模索しているのでしょう。

しかし、この同郷のペアリングで、またはそこからヒントを得たペアリングでお客様に楽しい驚きを与えることは十分に可能なのです。

鴨のグリル

当然、赤ワインを考えます。ピノ・ノワールでしょうか、メルローでしょうか。しかし、鴨が名産のロワール下流のナント地方ではミュスカデを合わせます。

魚介のトマト煮 リヴォルノ風

“カッチュッコ”と呼ばれる港町ならではの魚介たっぷりのスープです。キアンティ、赤ワインが定番です。

ベッコフ

「ベーカリーの窯」という名のアルザスの料理で、牛や豚、鶏などさまざまな肉、ソーセージなどを玉ねぎ、じゃがいもと共に陶器鍋でじっくり煮込んだ料理です。ピノ・グリと楽しまれます。

サーモン・ベイク

オレゴンの名物料理で、サーモンを丸ごと遠火でじっくり焼き上げる料理です。焼き色はつかず、ふっくらジューシーに仕上がります。ピノ・ノワールが大変よく合います。

バスクのタパス

バスクといえばチャコリ、微発泡のさわやかな白ワイン、またはロゼワインなどがよさそうです。もちろん、よく合うと思います。地元ではリオハの赤ワインを楽しんでいました。

これはペアリングなど単に考えてないだけかもしれません。ただユニークな提案にはなります。

このように郷土料理のペアリングにはユニークなもの(地元の人たちにすれば定番ですが)が数多くあり、その土地を訪れたようなストーリーのあるものになるのです。

ワイン産地の名産を知る

ワイン産地には多くの場合、素晴らしい名産食材があります。宝庫といってよいでしょう。

ペアリングを考える際にはその食材を名産としているワイン産地はどこだろうと調べることで、ストーリーもできますし、たいていは上手くゆきます。

当コラムの末尾に、ワイン産地と名産品の例を挙げてみました。ご参考になさってください。中にはその土地で名産とはいえずとも、郷土料理としてよく使われるものもあります。

今月のペアリング

バローロ マルチェナスコ 2014は、芳香高く、広がりが豊かです。マラスキーノチェリー、萎れたスミレ、甘草、キャラウェイ、湿った土や炭の香りなど詳細に富み、精巧な造りを感じさせます。

味わいは強く、濃縮感があり、がっしりとした印象です。引き締まった酸味はボディをリフトし、高めのアルコール、ヴォリュームのある渋みとともに堅固なストラクチュアをつくりつつ、豊満なボディに溶け込んでゆきます。

バローロの真髄、殿堂ともいえる歴史ある生産者ではありますが、現代的な洗練、造りといった新たな風も感じさせます。

ピエモンテは郷土料理の宝庫です。バーニャカウダ、フリット・ミスト、チーズフォンデュ、ポルチーニ、白トリュフ、マロン・グラッセなど大変有名なものがあります。

前菜のカルピオーネ(エスカベッシュ)、ヴィテッロ・トナート(冷製仔牛 ツナマヨネーズ)、パスタではアニョロッティ(ラヴィオリ)、タヤリン(タリオリーニ)、ボッリート・ミスト(牛の様々な部位と野菜を水から煮込む)などが有名です。リゾット・アル・バローロ、ブラッサート・アル・バローロ(牛肉のバローロ煮)といった料理もあります。

このようなバローロには濃厚かつ複雑な料理が合います。ピエモンテは牛肉をよく食べます。家庭で作れる料理でしたらビーフシチュー、ゴボウを入れると土っぽさが加わってよいです。タンやテールシチューも合います。ハッシュドビーフもよいでしょう。

バターをたっぷり使ってください。ピエモンテ料理はバターが多用されます。付け合わせにはバターで和えたフェットチーネやタリアテッレ、サフラン風味のバターライスはさらによいです。

白トリュフ料理の定番タヤリンは、バターを絡めて白トリュフをトッピングするシンプルなパスタ料理で、力強い赤ワインは想像つきませんが、なぜかバローロとはよく合います。

「トリュフには渋みの強いワインが合うんだ」と聞いたことがあります。白トリュフは香りのもので、渋みとどう合うのか、いまだによく理解できません。

郷土料理や名産食材とワインは、同じ水と空気のもと育まれます。造り手もそうです。郷土料理で育ったワインの造り手はそのテイストが身に染み込み、料理人も地元のワインのテイストが染み込んでいます。長い歴史とテロワールが生み出したペアリングは理屈を超えているのでしょう。

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ワイン産地と名産品の例

食材産地
牡蠣ボルドー、オレゴン、タスマニア、ニュージーランド南島
赤海老(ボタン海老)リヴィエラ海岸(ニース〜トスカーナ)
伊勢海老サルデーニャ、ガリシア
カニヴェネト、ガリシア
タコガリシア、ギリシャ
イカラングドック(セート)、ヴェネト、サルデーニャ、カタルーニャ
ウニブルターニュ(ロワール)、サルデーニャ、シチリア、チリ
南仏(プロヴァンス)、スペイン(バスク、カタルーニャ)、
ポルトガル(北部〜中部、ほぼ全土)
ボルドー、ロワール
仔羊ボルドー、プロヴァンス、
アブルッツォ〜プーリア、スペイン(カスティーリャ)
牛肉ブルゴーニュ(南部)、
トスカーナ、ピエモンテ、アルゼンチン、南オーストラリア
仔牛ロンバルディア、プロヴァンス
アスパラガスボルドー、ロワール、オーストリア(北部)、プーリア
ほうれん草トスカーナ
グリーンピースロワール、ヴェネト
キャベツアルザス、ドイツ
アルザス、プロヴァンス
パプリカ、レッドペッパーバスク、リオハ、アラゴン
アヴォカドチリ、メキシコ
ポルチーニ茸(セップ)ボルドー、ピエモンテ
黒トリュフシュッドウエスト(ペリゴール)、
プロヴァンス(ヴォークリューズ)、
マルケ、オレゴン、
オーストラリア(西オーストラリア、ヴィクトリア、タスマニア)
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