【バイヤーが語る】社会問題に取り組む「トーレス」のワイン造り

「トーレス」はスペイン・カタルーニャ州のスティルワインの大手生産者です。ボトルに牛が描かれた「サングレ・デ・トロ」はスーパーなどでも見かけるので、ワインを飲む方であれば、一度は拝見したことがあるかもしれません。

トーレスの創業は1870年と、2020年でちょうど150周年を迎えました。そんな長い歴史の中で、彼らの卓越した先見性や昨今のソーシャルグッドな取り組みは世界中から賛辞を集めています。

2019年にはカリフォルニアのジャクソン・ファミリー・ワインズと共同で気候変動対策のための国際的ワイナリー組織を立ち上げたり、 2030年までにCO2排出を55%削減することを目標にしたり、社会問題とも向き合いながらワイン界をリードしてきました。

なぜ、トーレスは環境問題、社会問題に取り組んでいるのか?その背景にあるのは「ワインと自然」という想いです。自然から恩恵を受けてこそ、自分たちはワイン造りができると考えており、地域社会や環境問題と共に生きていくという考えを持っています。

今回はそんなトーレスとエノテカの歴史や、社会問題への取り組みについて、ブランドマネージャーを務める安川に語ってもらいました。

【プロフィール】安川深雪

2008年エノテカ入社。商品部所属。
フランス・イタリアのブランドマネージャーを経て、現在はスペイン、南米、カリフォルニア担当。JSA認定ソムリエ、日本野菜ソムリエ協会認定野菜ソムリエ。

先見の明を持ったワイナリー

―トーレスとエノテカの歴史について教えて下さい。

エノテカが取り扱い始めたのは2015年1月からです。取り扱いまでの道のりは長く、2011年頃からアプローチはしていましたが、その声は届かずに3年ほど経っていました。

そんな時です、突然トーレスから電話があって「一度、お会いしたい」と。本当に急なことだったので驚きましたが、電話口では多くは話してもらえず、エノテカとの取引の可能性を探りたい、とのことでした。

トーレスが取り扱っているワインは、価格帯はもちろん、品種、産地と多岐にわたっています。それだけ多くの地域でさまざまなポテンシャルを持ったワインを造っていることがトーレスの「DNA」であり、そこにプライドを持っているので、スケールメリットだけではなく、それぞれの価格帯の個性あるワインの違いを分かって売ってくれる仲間を探していました。

3年もの間アプローチしても連絡がなかったので、「これは願ってもないチャンス」だと思いましたね。早急に経営陣に話をして、2015年からの販売開始にこぎ着けました。

トーレスは1970年代から日本への輸出は行っていて、実は日本での歴史が長いワイナリーです。1970年代は第一次ワインブームで、外国産ワインの輸入自由化がはじまった頃です。この頃から日本市場に進出していたワイナリーはそう多くなかったと思います。

ここにトーレスの「先見の明」があるというか、常に10年、20年先のことを考えて行動していたのはこの頃からですね。そのDNAは脈々と引き継がれていて、現在取り組んでいる環境問題やフェアトレードなども、まさにそうですね。

ワイン界で環境問題に取り組む先駆者

―昨今の取り組んでいる、環境問題やソーシャルグッド含めて、ワイン造りで大事にしていることなど教えてください。

トーレスがワイン造りで大事にしているのは「それぞれの土地が持っている伝統、文化、気候条件などを全て加味して、最大限のポテンシャルを表現する」というところです。

要は産地の特徴をリスペクトしたワイン造りですね。

本拠地はスペイン・カタルーニャですが、それ以外の土地でも2000年代に入ってからワイン造りを始めています。そこには各世代での考え方があって、三代目ミゲル・トーレスが掲げてきたのは、カタルーニャの土着品種を武器に世界で戦えるワインを造ること。四代目はカタルーニャ以外でのワイン造りと国際品種への挑戦です。

四代目はワインメイキングをフランスで学んでいたので、カベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネがスペインでも栽培できると挑戦しました。その結果、生まれたのが「マス・ラ・プラナ」や「ミルマンダ」ですね。

そして、五代目がそれを形にし、社会問題にも積極的に取り組むようになりました。世界を見ても、これだけいち早く社会問題に取り組んで、ワイン界をリードしているトーレスは比類なき存在だと思います。

―環境問題にはいつ頃から取り組んでいるんですか?

2008年に社をあげて「2020年までにワイナリーが排出するCO2を30%削減する」という目標を立てて、環境保護の取り組みを開始しました。

トーレスはスペイン以外の地でもワイン造りを行っていますが、各地で平均気温が上がっているそうです。特にカタルーニャでは、過去30年間で平均気温が1~2℃上昇していました。

それによる収穫日のズレなど、ワイン造りをしていく中で微妙な変化を感じ、自然と共に生きる生産者として、環境問題に真剣に取り組んでいかなきゃいけないと思ったそうです。

スペインだけの変化ではなく、チリでも同じようなことが起こっていたので、地球規模で影響が起き始めていると感じ取り、CO2削減プロジェクトを立ち上げました。

2019年にすでに30%削減は達成しましたが、それに満足せず、さらに高い目標を掲げて取り組み続けている彼らの姿勢にはワインビジネスに携わる者として感銘を受けます。

フェアトレードに取り組む理由

―チリでのフェアトレードも早かったですよね?

フェアトレードのきっかけは2010年のチリ大地震です。トーレスはチリに1979年から進出していて、チリにおける初の外国資本のワイナリーとして非常に長い歴史を持っています。

フェアトレードとは、原料や製品を適正な価格で継続的に取引することによって、生産者の持続的な生活向上を支える仕組みのことで、ブドウを栽培している農家の人たちにとって利益がしっかりと出る価格で買い取っています。

チリの大地震があった時、チリでの生産を任されていた五代目は、地元の街、道路が寸断されて家が崩壊している様子を目の当たりにし、「チリでワインを造って、利益を上げているのであれば、それを地域にも還元しなければいけない」と思ったそうです。

ワイン造りは1年、2年でできる話ではありません。10年、20年、半世紀、一世紀先を見据えると地域社会との共存というのは絶対に避けられないので、企業として地域社会に貢献しようと、地震をきっかけにフェアトレードの取り組みを始めました。

今では、チリ最大級のフェアトレード実践ワイナリーにまで成長しました。「自然と共に生きる」と「地域社会と共に生きる」というのは表裏一体で、自分たちの生活が関わっている、自然を守ることも地域社会に関わることも全てが循環しているというのが、トーレスの考えです。

私はフェアトレードとか、ワインそのものだけじゃない視点の大きさと長期的な視野において、トーレスはどこにも負けないと思っています。もちろん味もですね。

敢えてカヴァと名乗らないスパークリングワイン

―カタルーニャといえばカヴァですが、なぜ今までカヴァを造らなかったのでしょうか?

カタルーニャには、カヴァの大手ワイナリーがありますが、昔は紳士協定のようなものがあったと伺いました。

もともとはカヴァ(スパークリングワイン)で生業を立てていた生産者とスティルワインで生業を立てていた生産者との紳士協定ですね。

お互いの領域をリスペクトするという伝統からカヴァは造らなかったようです。ただし、時代も変わって、各生産者自由にカヴァ生産が出来るようになったので、「サングレ・デ・トロ・カヴァ・ブリュット」を造りました。

世界各地から「カヴァを造ってほしい」という声はあったようです。

―ヴァルドン・ケネットはカヴァと名乗れるのに、名乗らなかったのはそういった理由なんですね。

実はヴァルドン・ケネットは、トーレスが初めて造ったスパークリングワインで、おっしゃる通り、このワインは瓶内二次発酵でカヴァと名乗れますが、カヴァの名は捨てています。

その理由が温暖化によるもので、今はカヴァと名乗れる産地と品種でシャンパーニュ的な高級スパークリングを造っていますが、今後の温暖化のことを考えると、近い将来、スパークリングワイン向けのブドウ栽培が難しくなると予測していました。

ファーストヴィンテージがリリースされた段階で、ピレネー山脈の標高950mの冷涼な気候条件が揃う土地に畑を開拓し、将来を見据えたブドウ栽培を開始していたんです。

高級なスパークリングと言われるには、やはり冷涼な気候でエレガントな酸が求められるので、この品質を保つためには、温暖化を考えたうえで産地は変えていかなきゃいけなくなるだろうと、あえてカヴァと名乗っていないそうです。

夫婦の絆から生まれたワイン「セレステ」

―最後にトーレスが造るワインの中で、これだけは飲んでほしい!というワインを教えてください。

私が飲んでほしいのは「セレステ」ですね。2005年に生産を開始した、テンプラニーリョで造られているワインです。

「セレステ」は標高900mのリベラ・デル・ドゥエロという内陸地で造られていて、テンプラニーリョといえばリオハが有名ですが、リベラ・デル・ドゥエロは標高が高いため同じテンプラニーリョでも「セレステ」の方が赤ワインとして引き締まっています。

引き締まった味わいのエレガントな赤ワインは、もっと受け入れられていいはずです。トーレスは、そのテロワールを加味して最大限のポテンシャルを表現しているので、リベラ・デル・ドゥエロのユニーク性は新しい発見があると思います。

そして、このラベルですね。

このラベルは、ブドウが収穫される時期にワイナリーから見える星空が描かれています。

セレステは五代目がプロジェクトを始動して、ワイン造りまではスムーズだったみたいです。ただ、ラベルと商品名については、アイデアが全く浮かばず悩んでいました。

そんな姿を見た奥様が、「ワイナリーの屋上でワインでも飲みましょう」と声をかけて、何も考えずに空をボーっと眺めていたら、夜空一面に光り輝く星々の美しさに気付き、ラベルに採用し、スペイン語で「天空」や「空」という意味を持つ「セレステ」をワイン名にしました。

そんな夫婦の絆から生まれたワインということで、五代目にとっても大事なワインだそうです。

トーレスの熱い想いを感じるワインでもあり、なんと言っても彼らが目指している「その土地のテロワールを表現する」というものが、最も表現されているワインだと私自身思っているので、セレステを推させていただきます。

ぜひ、飲んでみてください。