世界のワインメーカーが注目する「アンフォラ」の魅力

アンフォラで造られるトスカーナ、イル・ボッロのペトルーナ

オークをはじめとする木樽やステンレスタンク、コンクリートタンクなど、ワインの発酵・熟成に使用される容器は様々ありますが、近年注目されているのが粘土の素焼きの甕(かめ)、アンフォラです。

そこで今回は、アンフォラの歴史や魅力を解説します。

アンフォラとは

「アンフォラ」とは陶器の器の一種で、ワインをはじめとした様々な液体や物品を運ぶために用いられた素焼きの容器の総称です。

紀元前15世紀ごろのレバノンからシリアの海岸に現れて古代世界に広まり、古代ギリシャ・ローマにおいては、ワインやオリーブ・オイル、その他の必需品を運搬・保存するための手段として用いられていました。

古代に用いられたアンフォラの多くは、運搬・保存に最適な40リットル前後。運搬のための二つの持ち手が付いており、地面に突き立てるために底が尖っているものでした。

一方、現在のワイン造りで使われているアンフォラには持ち手はなく、ずんぐりした卵型の形状が多いのが特徴。200〜3,500リットルと様々なサイズがあり、運搬容器としてではなく、醸造・熟成容器としてより適した形となっています。

アンフォラを使ったワインの歴史

アンフォラを使ったワイン造りが始まったとされるのが、ワイン発祥の地でもあるジョージアです。

そこからどのようにして今日まで「アンフォラ」が伝わってきたのか歴史を振り返っていきましょう。

ジョージアのクヴェヴリ製法

ジョージアのクヴェヴリが埋められた醸造所

ジョージアのワイン造りは、紀元前6000年頃から始まったと言われていますが、実は当初からジョージアで「クヴェヴリ」と呼ばれるアンフォラが使用されていました。

その使用方法は、粘土でできた素焼きの卵型の壺「クヴェヴリ」を地中に埋めて、果皮、果肉、果梗、種と共にブドウ果汁をその中に投入。その後、土の中にあるクヴェヴリは自然と低温に保たれるため、発酵と熟成がゆっくりと進行していきます。

この醸造方法はあまりにも手間暇がかかることから19世紀には減少していましたが、2013年にユネスコの「無形文化遺産」に登録されたことで、現在は徐々にクヴェヴリによる生産は増えてきています。

また、通常のワイン造りとは異なり白ワインにおいても果皮や種と共に醸造されるため、こうして造られる白ワインはオレンジ色を帯び、地元では「アンバーワイン」と呼ばれています。

広くは「オレンジワイン」と呼ばれ、クヴェヴリの醸造法と共に日本でも広く知られるようになっています。

フリウリから始まった「アンフォラ・ルネサンス」

ジョージアで8000年も前からワイン造りに用いられていたクヴェヴリですが、この伝統的な技術を今日のワイン界に広めたのは、イタリア北部、フリウリの造り手、ヨスコ・グラヴネル氏です。

バリックをイタリアに初めて導入した造り手の一人であるヨスコ・グラヴネル氏が造る近代的な白ワインは、1980年代に一世を風靡しました。

しかし、「もっと自然にワイン造りをする必要がある」と感じたヨスコ・グラヴネル氏は、ワインのルーツであるジョージアを視察。そこでジョージアワインとクヴェヴリにインスパイアされ、自身のワイン造りにもクヴェヴリでの醸造を導入しました。

2000年代にはフリウリの生産者をはじめ、イタリア国内のワインメーカーが彼のワイン造りに刺激を受け、アンフォラでのワイン造りが徐々に広がっていきます。

そして2010年代以降、人的介入を少なくしたいと考える自然派ワインの造り手を中心に、アンフォラでのワイン造りは世界中の生産者を惹きつけ、現在では新しいワイン容器として再び注目を集めることになったのです。

アンフォラのメリットとアンフォラ・ワインの特徴

バローロの造り手マッソリーノも試験的にアンフォラを使用

世界中の生産者を魅了するアンフォラですが、ワイン造りにおいてアンフォラを使うメリットは何なのでしょうか。

まず一つ目のメリットとして挙げられるのは、アンフォラには、オーク樽と同じく微酸化作用があることです。アンフォラは素焼きの粘土で作られているため、ステンレスタンクやコンクリートタンクと比べると気密性が低く、木樽同様にワインに微量の酸素を供給することになります。

また、アンフォラは一般的に内部が蜜蝋でコーティングされているため、ステンレスタンクと同様容器由来の風味をワインに付けないということも、大きなメリットです。

このような理由から、アンフォラで造られたワインは、木樽で造られたワインのようなまろやかで優しい味わいと、ステンレスタンクで造られたワインのようなブドウのピュアな果実味の、両方の良い点を兼ね備えたワインとなるのです。

また、粘土素材の性質により外気温の影響を受けにくいため、人工的な温度管理を必要としないということや、卵型の形状が自然対流を生み出すため、バトナージュやラッキングといった攪拌作業を必要としないということも、アンフォラのメリットとして挙げられます。

アンフォラの様々な名称

イタリア、シチリアの生産者コスの醸造所

伝統的にアンフォラを使用していた国としてはジョージアが最も有名で、この地でアンフォラは「クヴェヴリ qvevri」と呼ばれています。

同じように伝統的にアンフォラを使用している国は他にもあり、その名称も国や地域によって異なります。

ジョージアと同じコーカサス山脈一帯に位置し、ワイン発祥の地の一つと言われているアルメニアでもアンフォラによるワイン造りの歴史があります。約6100年前の醸造所の遺跡があるアレニの洞窟やエレヴァンの郊外でワイン造りに使われていたアンフォラが見つかっており、この地では「カラス karas」と呼ばれています。

またギリシャでは「ピトス pithos」と呼ばれており、150個のアンフォラが地中に埋まる、世界最大規模のアンフォラ醸造所を所有するシチリアの生産者コスは、「ピトス」という名前のアンフォラ・ワインを造っています。

ポルトガルのアレンテージョでは、アンフォラは「ターリャ talha」と呼ばれています。ターリャは2000年以上も前にこの地方を納めたローマ人が伝え、ワイン醸造に使用されていましたが、1950年代を境に大量生産の時代に入ると、セメントタンクやオーク樽などが多くなり、この伝統はほぼ消滅することとなります。しかし2010年、アレンテージョ地方のワイン委員会が、アレンテージョDOCに新たに「ヴィーニョ・デ・ターリャ」と呼ぶカテゴリーのワインを承認し規定に加えたことで、年々その生産量は増えています。

その他、ジョージアとアルメニアに接するトルコでは「キュプ küp」と呼ばれ、ラ・マンチャ地方をはじめとするスペイン中部や南部、そしてチリの南部では「ティナハ tinaja」と呼ばれる土器の大瓶がワインの熟成や貯蔵に使用されており、これもアンフォラの一種とされています。

まとめ

イタリア、トスカーナの生産者イル・ボッロの醸造所

ワイン発祥の地、ジョージアで8000年も前から使用されていたアンフォラは、フリウリの地からイタリア、そして今ではボルドーやブルゴーニュなどの伝統産地、そして日本をはじめとする新興国まで世界中に広がっています。

皆様もぜひ、世界中の生産者を魅了するアンフォラで造られたワインの魅力と個性をお楽しみください。

参考・ヴィノテーク 2020.3 No.493・AMBER REVOLUTION, Simon J Woolf・Decanter May 2018