「キャンティ・クラシコ」はどのようにして生まれたのか?

キャンティ・クラシコ

サンジョヴェーゼから醸される銘酒「キャンティ・クラシコ」。トスカーナを代表するDOCGワインでもあり、イタリアらしい混沌たる歴史を持つ酒でもあります。

一体どのようにして誕生したのでしょうか。

気難しいサンジョヴェーゼ

サンジョヴェーゼ

「サンジョヴェーゼは難しいよ。だから今でも研究してるんだよ」。イタリアワインの巨匠、内藤和雄氏が他界する2週間前、筆者との会話で触れたのはサンジョヴェーゼの「気難しさ」でした。

一つには晩熟で長い生育期間を必要とすること、二つ目に土壌との相性にうるさく、石灰を含む土壌で本領発揮すること、そして最後に突然変異しやすくクローンが多いため「これがサンジョヴェーゼ」というはっきりとしたステレオタイプがないことです。

いずれにしてもピノ・ノワール同様に神経質なため、サイトセレクション、収量制限、クローン管理、密植など細心の注意を払う必要があります。

土地の目利きが必要

キャンティ・クラシコ

トスカーナ沿岸部は温暖な地中海気候、内陸部は大陸性気候になります。キャンティ・クラシコDOCGは内陸に位置し、特にフィレンツェとシエナの間の丘陵地帯を指します。

内陸部は秋に雨が多く、晩熟なサンジョヴェーゼにおいては悩みの一つ。そのためエリア内でも、標高、方角などつぶさに観察してサイトセレクションを行う必要があります。中でも石灰を含む畑は最上とされます。

つまり高品質なキャンティ・クラシコを産出するには、どこでもいいという訳でなく、鋭い土地の目利きが必要となるのです。

キャンティの歴史

ワイングラスに入った赤ワイン

キャンティの歴史は14世紀まで遡ります。プラートという街で始まり、フィレンツェの貴族や、リカーゾリ家によって発展。特にキャンティが注目を集めるきっかけとなったのが1716年のことでした。

人気の高まりとともに「キャンティ」と冠した偽ワインが横行したため、トスカーナ大公のコジモ3世がキャンティに対して境界線を定めることとなったのです。この線引きはのちのDOCGやDOCの基礎ともなりました。

興味深いのは、コジモ3世によって指定されたキャンティが現在のキャンティ・クラシコDOCGとほぼ一致していることです。

鬱々たる19世紀

輝かしい名声を確立した18世紀に対して、19世紀から20世紀初めは憂鬱な時代とも言えるでしょう。

一つは1872年ペッティーノ・リカーゾリ男爵によって考案されたブレンド法です。「キャンティは固くて厳めしい」と考えた男爵は「サンジョヴェーゼ70%、カナイオーロ20%、マルヴァジア(白)10%にブレンドすべき」と定めたのです。

確かにこのブレンドにより若いうちから楽しめる気軽なワインとなりました。その反面、シリアスさに欠けた短命なワインへなり下がるきっかけとなったのです。

巨大キャンティの誕生

二つ目は1932年の「巨大キャンティ」の誕生です。

経済性に目を付けたコネリアーノ大学のダルマッソ教授が境界線拡大を提案しました。

本来なら気難しいサンジョヴェーゼで成功するためには、土地をつぶさに観察し、慎重にサイトセレクションを行うべきでしょう。ところがこの境界策の拡大により、「キャンティ」と冠したワインが大量生産されるようになったのです。中には軽くてシンプル、時には粗悪なものまで流通するようになりました。

14世紀から産出され続けている伝統的なキャンティを含めると、まさに玉石混交状態。いかにもイタリアらしい歴史です。

キャンティ・クラシコ協会設立

キャンティ・クラシコ

「安かろう悪かろう」なキャンティが出回り始め、ブランド崩壊に警鐘を鳴らしたのがフィレンツェとシエナの間で伝統的にキャンティを産出していた優良生産者たちでした。1924年、33の有志が立ち上がり「キャンティ・クラシコ協会」を設立したのです。いわゆる品質保護協会です。

その後は目覚ましい進化を遂げることとなりました。1967年、キャンティがDOCGに認定されると、フィレンツェとシエナの歴史的なエリアに限って「クラッシコ」表記が可能になりました。(「クラッシコ」は「クラシックな」「伝統的な」の意味です)。

1996年にはいよいよキャンティから独立して、単独でDOCGキャンティ・クラシコが名乗れるようになったのです。

さらなる高みを目指して

キャンティ・クラシコ

現在、キャンティ・クラシコ協会のメンバーは約580。リカーゾリ男爵の計算式で定められていた白ブドウ品種のブレンドは禁止されています。サンジョヴェーゼ100%での醸造、国際ブドウ品種のブレンドも20%まで認められています。

2014年にはさらなる高みを目指して「Gran Selezione(グラン・セレツォーネ)」を制定。当時のキャンティ・クラシコ協会の会長でカステッロ・ディ・アマの現オーナーであるマルコ・パランティ氏が制定に尽力しました。

規定では自社畑のブドウのみ使用すること、最低30か月以上の熟成を経ることなど定められています。制定の背景にはさらなる差別化の狙いが透けて見えます。

30か月の熟成に耐えうるためには、選び抜かれたテロワールから、ポテンシャルの高いブドウを使う必要があり、誰もが名乗れるものではありません。実際、現在のところ全体の5%しか認定されておらず、そのハードルの高さはお墨付きのようです。

まとめ

キャンティDOCGと言った場合は20世紀初頭に爆発的に広がった広域な原産地呼称。キャンティ・クラシコDOCGと言った場合はフィレンツェとシエナの間に位置する丘陵を指しています。

トスカーナの魂ともいえるキャンティ・クラシコ。その進化はいまだ止まるところがありません。次はどんなステージに進むのか、その活力溢れる試みに今後も期待が高まりそうです。