すっかり定着した、いや急激に広まったといってもよいでしょう、ぺアリングという言葉。これまであまり頓着されなかった人たちでさえ、口にするようになっています。
ペアリングは文字通り「ペアにする」、また「同調する」、「同期する」といった意味で、それが料理とワインの相性にも使われるようになりました。
さて、言葉はすっかり知れ渡りましたが、本当の「料理とワインの相性」(あえて、こう言いましょう)を知り、体験されている方は思いのほか少ないのではないでしょうか。日本ソムリエ協会の会員からリクエストの多いセミナーテーマに「ペアリング」はよくあがります。
今回はそんなペアリングのポイントについてお話ししたいと思います。
目次
よいペアリングとは
ペアリングはいわば食べ合わせですから、お気に入りは人それぞれだと思います。以前ソムリエコンクールで「ペアリングについて考察を述べなさい」という課題に、多くのソムリエがお客様の好みによると答えました。
間違いとはいえませんが、それではなんでもアリになってしまいます。よいペアリングには以下のような効果があります。
1.料理(主食材)を引き立てる
2.ストーリーがある
3.料理と楽しむことでワインの可能性が広がる
1.料理(主食材)を引き立てる
ペアリングの原点はワイン生産伝統国にあります。そんな国々では、ワインは料理を楽しむために存在します。「ワインが固い」とか「若い」という表現には「料理と味わうには、」が枕詞としてもともとあったわけです。
また、「ソースが濃厚なクリームソースなのでブルゴーニュの白を、、」というセリフが、ソムリエからも聞かれます。もちろんよく合うのですが、重要なのはソースより主食材です。ソースは主食材のためにあるのですから。
2.ストーリーがある
ワインはストーリーのある飲み物であるからこそ、人々を惹きつけてきました。料理にもストーリーがあります。産地や歴史的背景などがそのストーリーの鍵となります。旅気分を味わえるのがストーリーのあるペアリングです。
3.料理と楽しむことでワインの可能性が広がる
世界には本当に様々なワインがあります。当然、滅多に飲まないワイン、自分では選ぶことのないワインというのが山ほどあります。それがペアリングを求めることによって、そんなワインを味わう機会ができ、その良さを知ることができます。
例えば、フランス・ジュラ地方にヴァンジョーヌという伝統的なワインがあります。大変個性的、かつ高価なので、なかなか食指が動きづらい。
しかし、ジュラ名産のコンテチーズと味わうと、ヴァンジョーヌ以外に合うワインはないと思えるほど魅力的なペアリングになるのです。
ワインの醍醐味は多様性です。その多様性を知るために、大変有効なのがペアリングなのです。
ペアリングの試し方
「どういうのが合っているというのか分からない」という声を聞くことがあります。そこで、私が日頃実践しているペアリングチェックの方法を紹介します。
まず、主食材にソースなど味付けの要素になるものを少しつけて口に入れ、口全体に料理の味が行き渡るようにします。量はその後に口に入れるワインと同じくらい、多過ぎないように。この時、鼻から抜けてゆく風味にも注意します。
そして料理を飲み込むとほぼ同時にワインを口に入れます。同じように口全体に回して、料理が口の中にあった時間と同じくらい含んだら吐き出します(ソムリエは仕事中はワインを飲み込みません)。これで後味がいくつかに分かれます。
① 違和感はないけど、広がりもない
② ワインを飲み込んだ(吐き出した)後、料理の風味が戻ってきて、いつもでも残る
③ 料理の風味は戻ってこない
①はワインが料理に絡めていない、つまりペアリングは成り立っていません。②はワインが料理を引き立てています。ワインによって料理の風味をより長く楽しむことができています。③はワインが勝ってしまっています。
時には、口に入れた瞬間に見事に調和しているのが分かる、またグラスを鼻に近づけた時によい相性を確信できる、ということがあります。これらがもっとも素晴らしいペアリングですが、なかなか出会うことはありません。ぜひ②を意識して、チェックしてみてください。
今月のペアリング
6月は野菜、それもグリーンの野菜が美味しい季節です。グリーンアスパラガス、そら豆、スナップエンドウ、サヤインゲン、葉物ではモロヘイヤ、空芯菜、、、と尽きません。
そんなみずみずしさ、甘み、爽やかなグリーンフレーバーをもつ野菜に合わせるワインは、やはり白。それもクリーンで透明感のある香り、フルーティーさは抑えめなほうがよく、樽の香りも不要です。
味わいはスムースで飲み心地がよく、溌剌とした酸味のワイン。とはいってもドライなだけでなく、熟度からくる甘みが感じられるほうが、野菜の甘みと同調します。
アレグリーニ ソアヴェ 2018は、クリーンでピュア。控えめながら青リンゴやマスカットの果実の香りに、コリアンダーや白コショウといったスパイスのアクセント、ほんのり海藻のようなミネラル感を含みます。
口中を流れてゆくような味わいは、クリスプな酸味と柑橘の皮のような爽やかさ、ジューシーな甘みも備えています。
この時期の野菜と楽しむワインとしてぴったりの特徴です。以下のような料理と相性が良いでしょう。
ミラノ風アスパガラガス、そら豆のチーズリゾット
まずは同じイタリアの料理。ミラノ風アスパラガラスはヴェネトのお隣りロンバルディア州の料理ですが、このアレグリーニ・ソアヴェのフルーツフレーバーとミネラル感はグリーンアスパラガスととてもよく合うと思います。
そら豆のチーズリゾットは、ヴェネト州のリージ・エ・ビージというグリーンピースのリゾットをイメージしました。もちろんそのままグリーンピースでもよいのですが、日本の食卓ではそら豆のほうが季節感を楽めますよね。
どちらも先述の「主食材を引き立てる」、「ストーリーのある」ペアリングです。
モロヘイヤのフォー、ナンプラーをきかせた空芯菜とアサリのタイ風炒め
ワインがもつスパイスの風味からアジアンとも楽しめます。またこのワインのもつミネラル感を伴った酸味は、出汁や発酵調味料の旨味ともよく合います。
フォーにはキーライムが添えられますが、そんな柑橘の爽やかな酸味を加える役割も兼ねます。