佐藤錦、ラ・フランス、シャイン・マスカット。おいしい果物の産地と言えば、まず思いつくのは山形県ではないでしょうか?
山形県ではワイン用のブドウもたくさん栽培されています。そして、日本ワインブームが続く昨今、質の高い山形県産のブドウは県外のワイナリーからの需要が絶えません。
そんな人気の高いブドウから造られる山形のワインとはどんなワインなのでしょうか?今回は山形県で造られるワインについて紹介致します。
山形ワインの概要
山形県は本州北東部に位置する県で、県の北西部は日本海に面しています。内陸の東側には奥羽山脈が南北に走り、それと並行して県の中央に山地が連なっており、面積の72%は森林です。
ワイン用のブドウが栽培されているのは、山形県の最南端に位置し米沢盆地を中心とする置賜地域と、山形盆地の村山地方、そして庄内平野に位置する庄内地方で、いずれも周囲の山々から流れる小河川を吸収しながら県内を北上し、やがて日本海に注ぐ最上川によって形成された土地です。最上川下流の平野部は米作が盛んですが、平野部と山間部の中間地帯では古くから果樹栽培が盛んで、さくらんぼ、桃、洋梨、りんご等が栽培されており、その中にブドウ畑が点在しています。
ワイナリーが多くある内陸部は日本でも有数の豪雪地帯ですが、夏は気温が高い盆地気候。ブドウ畑は主に盆地辺縁部の傾斜地に拓かれているため、水捌けが良く、ブドウ生育期の降水量の少なさや夏季の日照量の多さ、最低気温の低さなど、ワイン用ブドウの栽培に恵まれた条件が揃っています。
栽培されている黒ブドウで最も多いのがマスカット・ベーリーAで生産量の約3割を占めます。その他、メルロやカベルネ・ソーヴィニヨンの生産量も増加しています。白ブドウで最も多いのはデラウェアで、栽培面積では全国1位を占めると推定されます。
国税局のデータによると日本ワインの生産量は1,195klで山梨県、長野県、北海道に続き全国4位。ワイナリー数は14軒です。
特筆すべきは、山形県の国産生ブドウの生産量のおよそ3〜4割が県外に流出していることで、質の高い山形産ブドウは県外のワイナリーからの引き合いが強いことがわかります。(注1)
(注1)国税局課税部酒税課 平成29年度調査分による
山形のワイン造りの歴史
山形県のワイン造りは明治中期に始まりました。山梨県に遅れることわずか10数年のことです。長野県同様、殖産興業の一貫として県の官業畑が高畠町に開かれたのが最初です。赤湯の金山周辺の耕作も解禁され、ブドウは山間の急傾斜地に植えられました。平地は稲作に占められていたからです。
1892年に赤湯で始まったワイン造りにはとあるきっかけがありました。当時、山形県に滞在していたイギリス人が「おいしい米沢牛を食べるためのワインが欲しい」と言ったのを、赤湯の有力者である酒井弥惣氏が聞きつけてワイン造りを思い立ったとのこと。その酒井弥惣氏によって設立された酒井ワイナリーは現在東北最古のワイナリーとなっています。
その後、1916〜1920年にかけては、フィロキセラによってブドウ畑は壊滅的な打撃を受け、保存性に優れたデラウェアに切り替わっていきます。
戦後は甘味果実酒の流行に伴い大手メーカーが山形に進出したため、県内のワイナリーはデラウェア、コンコードの他、マスカット・ベーリーAなどで原料ワインを造り、大手メーカーに供給しました。デラウェアは当時生食用としても需要が高く、山形では重要なブドウとなっていました。
しかし、1960年代以降、甘味果実酒の需要が減退してくると大手メーカーは撤退。残された中小のワイナリーは、以後、本格的なワインの生産に切り替え、ヨーロッパ系ブドウ品種を導入します。その後のワイナリーの努力により、シャルドネやメルロをはじめ、日本では栽培が難しいとされてきたカベルネ・ソーヴィニヨンの栽培にも成功し、栽培面積を増やしています。
2000年以降の日本ワインブームで、長野や北海道のワイン産地ではワイナリーが続々と新設されていますが、山形のワイナリー数はそれほど増加していません。しかしワイン用ブドウの品質には定評があり、県外からの引き合いは増加の一途を辿っています。
山形のワイン産地
山形県にある14のワイナリーのうち、上山市や天童市を含む村山地方に6軒、南陽市や高畠町のある置賜地方に6軒あります。その中でも注目の産地とワイナリーを紹介します。
上山市
蔵王連峰の麓にある上山市は四方を山に囲まれた盆地で、果物の産地として有名です。盆地の斜面に広がっている畑のブドウには均等に日が当たり、山から吹き下ろす風と水はけの良い土壌でブドウ栽培に最適です。
上山市では、2015年にワイン生産と消費の拡大、ワイン用ブドウの生産振興を自治体や農業関係者などで支援する「かみのやまワインの郷プロジェクト」が発足しました。さらに、上山市は2016年6月にワイン特区を取得。酒税法の酒類製造免許に係る最低製造見込数量の基準が6,000リットルに対し、特区では2,000リットルに緩和されているため、現在、少しずつですがワイナリー設立を視野に入れて就農する動きが見られます。
上山市には、いち早くカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロ、シャルドネなどヨーロッパ系品種の栽培をスタートさせた歴史あるタケダワイナリーがあり、それらのブドウの平均樹齢は20年を超えています。
その影響もあって、現在上山市はヨーロッパ系品種の栽培が盛んで、とりわけカベルネ・ソーヴィニヨンは日本有数の適地です
高畠町
置賜盆地の北東部に位置する高畠町は、稲作をはじめ果樹栽培も盛んで、有機農法の先駆地としても知られています。
1990年に設立された高畠ワイナリーは、高い醸造技術により短期間で大きな発展を遂げた東北地方最大のワイナリーです。創業以来、地元のブドウ農家との連携のもと高品質な原料ブドウに恵まれ、上質なワインを生産してきました。既に国内外のコンクールで高い評価を得ています。
高畠町は市町村単位ではデラウェアの栽培が全国最大で、高畠ワイナリーでも地元の農家からデラウェアを購入してワインを生産しています。世界基準の高品質なワインを造ることを理念としている高畠ワイナリーは、カベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネ等ヨーロッパ系品種から多種類のワインを生産していますが、マスカット・ベーリーAやデラウェアのスパークリングなどにも力を入れています。
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朝日町
村山地方を蛇行して北に流れる最上川流域の山間の街が朝日町です。他の産地同様、りんごやブドウなどの果樹栽培が盛んな地域で、ワイナリーが1軒あります。
この地域で特筆すべきは、マスカット・ベーリーAの取り組みです。通常、この品種の県内の収穫時期は10月中旬ですが、朝日町では大半のブドウが11月初旬に収穫されます。完熟したマスカット・ベーリーAから造られるワインは、凝縮感のある味わいで日本ワインコンクールの金賞受賞ワインの常連となっています。
山形ワインの現状
山形県のワイン造りにおいて、ブドウ農家の存在は大変重要です。1970年代以降、ワイナリーを中心にヨーロッパ系品種の栽培が始まっても、従来から農家によって生産されてきたデラウェアやマスカット・ベーリーAなどの伝統的品種は、甘味果実酒用だけでなく本格的なワインの生産にも向けられました。
これらのブドウは農家が長年の栽培により技術を蓄積していたことや、日本の気候に適した品種であること、また、比較的リーズナブルな価格のワインとなることから、一定の人気があったのです。
最近は、ワイナリーとブドウ農家でこれらのブドウのさらなる改良努力が続けられています。例えば、デラウェアはこれまで生食用が主流だったため無核(種無し)でしたが、ワインにする場合は有核(種有り)の方が良いことから、ジベレリン処理(注2)をしない栽培方法に取り組んでいます。
(注2)開花前後のブドウを薬剤に一つ一つ浸して無核にする作業のこと。
まとめ
山形県のワイナリー数は他県のワイン産地に比べると少ないものの、上山市のワイン特区に続き南陽市も「ぶどうの里なんよう」に指定され、ここ数年山形県のワイン造りとワイン用ブドウ栽培は活発化してきています。
もともと山形県の果樹栽培は長い歴史を持つため農家の栽培技術が高く、ワインの原料となるブドウのポテンシャルの高さは折り紙付きです。ますます美味しいワインが生まれるのは確実でしょう。
今後も山形ワインから目が離せません!
参考文献 ・日本ソムリエ協会 教本 2018 ・イカロス出版 WINES OF JAPAN 日本のワイン