奇怪な用語が飛び交うワインテイスティング。フルーツや花ならまだしも、スパイスに、ミネラル、焦げ香??しまいには動物臭?!ですが、これにはきちんと意味があるのです。ソムリエ目線で、毎回難解なテイスティング用語や表現などを解明!
あなたもイメージを膨らませてテイスティングに挑戦してみてはいかがでしょうか。
ビギナー向けワイン、という表現があります。軽くて、フルーティーで、甘み(ほどよい残糖分のある)のあるワインを指すことが多いようですが、私は以前からこの「ビギナー向け」という表現には違和感を覚えていました。ビギナーでも辛口で飲みごたえのあるワインが好きな人もいないわけではありません。このようなワインを「女性向け」とコメントする人もいます。これはさらに表現としては合っていません。女性が甘いものが好きなのはスイーツの話であってワインにおいては甘口が好きと、ひとくくりにしてしまうのは大雑把すぎます。
その表現のウラには「ワインを飲み慣れた人には向かない」という意味を含むわけですから、そのワインをポジティブに表現したことにはなりません。たしかに、軽快・フルーティーな甘みのあるワインを、ワインをあまり飲まない女性が気にいるというケースは少なくありません。
毎年9月に香港で行われる『デカンター・アジア・ワイン・アワード』に2013年からジャッジとして参加させてもらっています。ブラインドテイスティングでポイントをつけてゆき、上位のワイン(100点満点 95点以上)がゴールドメダルとなります。私はそのポイントや結果にはあまり興味はなく、世界中のワインを一挙にテイスティングできるということと、世界中のプロフェッショナルとのディスカッションという機会を大変楽しみに毎回参加しています。
ある年、1つのワインが議論の対象となりました。テイスターは皆それがモスカート・ダスティであることを予想していました。このワインにゴールドのポイントをつけたテイスターがいたのです。たしかに秀逸な品質の別格のアスティでした。「しかしシャンパーニュでもブロンズ(86〜89点)のものもあるのみ、アスティがゴールドというのはこの結果を見た人はどう思うだろうか?」と私は疑心暗鬼でした。今思えば、人のことを偉そうに指摘できませんよね。
審議がまとまらない場合は、ヴァイス・チェア(リーダー)が数名で検討します。当時のヴァイス・チェア、ジェラール・バッセさん(注1)はやってくると、我々に「Gold」と告げました。私を含め、数人は大変驚きました。そして「アスティはビギナー向けなんかではないんだ。世界のオーソリティが認めるワインなんだ」と知りました。
(注1)2010年世界最優秀ソムリエ。マスター・オブ・ワインでもあり、マスター・ソムリエでもある偉大なソムリエ。2018年逝去。
シリアスなワイン
サラッコのモスカート・ダスティ2018は、チャーミングかつピュアで落ち着きが感じられます。青リンゴ、グリーンマスカット、キーライムなど爽やかな印象。ライラックやユリの香りは華やかさと上品さを、コリアンダーシード、ワックス、石灰が深みを与えます。緻密さ、率直さがあります。味わいはソフトで、厚みを与える甘みと口中をリフレッシュする泡立ちとの調和が心地よく、ジューシーかつ果肉感のある食感が丸みのあるボディを作り、余韻が引き締まった印象となります。
このようなワインを「シリアスな」と表現することができます。親しみやすさより、生真面目さ(率直な)、より整然、静謐とした印象があり、厳粛さを感じられるような時に使われます。
このアスティは、フルーティーさ、チャーミングさを残しながらも、本格的な造りをしていることがよく現れており、どこか緊張感があります。まさにシリアスなモスカート・ダスティです。
モスカート・ダスティ / サラッコ
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「モスカートの代弁者」として確固たる地位を築き上げ、著名評論家から惜しみない賛辞を受けるサラッコ。50haの広大な畑を所有し、並外れたこだわりによって、フレッシュかつ熟成のポテンシャルをも備えた無二のモスカートを生み出しています。こちらは『ガンベロ・ロッソ』の最新2018年版でトレ・ビッキエリを獲得した代表的銘柄です。