ワインの飲み頃はいつ?

ワインボトルを目の前に「いつ開けようか」そんな風に悩んだ経験はないでしょうか。「そろそろ飲み頃?いやまだ早い?」エンドレスに続く自問もワインラヴァーにとっては幸せな時間かもしれません。

それにしてもワインの「飲み頃」というのは本当に困ったもの。海千山千の修業を積んでも結局は開けてみないと分からないからです。

瓶内熟成による変化

貯蔵段階にあるワインは常に変化し続けています。それがたとえ木樽熟成でも、瓶内熟成でもです。

一般的に白ワインであれば瓶内熟成によって、ハチミツ、トースト、ナッツ、赤であればレザー、タバコ、腐葉土のような香りが現われるでしょう。

香りの複雑性が右肩上がりで増していく中で、一番高いところを「飲み頃のピーク」。やがて横ばいになり、下り坂のカーブを描いていくフェーズを「ピークを過ぎた」と表現します。下降の段階ではヴィネガーのような香りを感じることでしょう。

また一般的に「飲み頃」が議論される場合には、香りのボリュームだけでなく、渋みがマイルドになるなど、瓶内熟成によって相対的に品質が上がることも指しています。(図1参照)

図1:ワインのピークについて

プロの推理も異なる

熟成はミステリー。定点観測でもしていない限り、どのような上昇下降を描くかは百戦錬磨のテイスターであっても結局は開けてみないと分からないものです。同一ワインを飲んでも評論家によって「飲み頃評価」が変わるのはこのためなのです。

例えば2003年のシャトー・ムートン・ロスチャイルドに関して、英国人評論家ジャンシス・ロビンソンは飲み頃を2010年~2023年としていますが、アメリカ人評論家のロバート・パーカーのサイトでは2014年~2029年としています。

どちらの予想が正しいのでしょうか。また、わずか数年の差に違いはあるのでしょうか。

もちろん、開けてみないと分からないというのが正解です。加えて今から10年は待たないと分からないという、なんともスケールが大きな話なのです。

熟成スピードに影響を与える要素

ただし専門家たちが飲み頃を判断するにあたって、ワイン中に含まれるいくつかの要素を参考にしていることは間違いありません。

下記の四つは一般的に熟成スピードを左右するワイン中の代表的な要素です。

  1. 酸味の量
  2. ポリフェノールの量
  3. 残糖量
  4. アルコール度数

ポリフェノールの量に関して言えば、果皮が厚く小粒の品種カベルネ・ソーヴィニヨンはポリフェノールの含有量が多く熟成に向き、飲み頃のピークを迎えるのが遅いと言われます。逆に果皮が薄くポリフェノール含有量も少ないガメイを原料に用いるボジョレーの飲み頃ピークが早いと言われるのはそれ故です。(図2参照)

「いつ開けようかな」と思った場合は、これら四つの要素を参考に考えてみるのがいいでしょう。

図2:ポリフェノールの量による飲み頃の違い

「飲み頃」を知るために定点観測に挑戦!

筆者はこの熟成のミステリーに迫るため10年間かけて「定点観測」するレッスンを実施していました。

実験方法はシャトー・ラグランジュの2000年から2006年までをヴィンテージごとに1ケースずつ購入して、毎年同時期に開けてその変化を確かめるというものです。2009年から始めた実験もようやく今年終えることが出来ました。

美魔女なグレート・ヴィンテージ

印象的だったのが、いわゆるグレート・ヴィンテージと称される2000年と2005年です。この二つは熟成のスピードが驚くほどゆっくりで、いつまでも若々しい美魔女ワインだったのです。これは酸味とポリフェノールの含有量がベストバランスゆえでしょう。飲み頃を迎えるのは遅そうですが、ピークに達したときが楽しみな2本でもありました。

それに対して一般的に「難しい年」とされる2003年はあっという間に熟成が加速して、みるみるうちに飲み頃のピークを過ぎてしまいました。2003年は40度越えの酷暑が続き、熱中症のためたくさんの人が亡くなった年です。高温続きのために酸の含有量が少なく、熟成が早まったということが裏付けされます。(2003年の飲み頃はジャンシスによると2008~2014)

オフ・ヴィンテージは化ける⁉

二つ目に発見したことは、いわゆるオフ・ヴィンテージは熟成すると「化ける」ということです。オフ・ヴィンテージは1年を通じて雨が多いことが特徴です。

2004年は年間降雨量の多い年の一つで、若いうちはどこか針葉樹林やハーブを思わせる香りが印象的なワインでした。しかし観察し始めて7年経った頃にはタバコや腐葉土を思わせる妖艶なワインに変身していたのです。

定点観測のススメ

上述の実験のように何も七つのヴィンテージを1ケースずつ買わなくても、同一ヴィンテージのワインを1アイテム1ケース用意して定期的に開けていくと「飲み頃」を肌で感じることが出来ます。

例えば結婚年やお子さんの誕生年を1年ずつ開けていってはいかがでしょうか。1年ずつでなくても、子供が成人したら1本、就職したら1本、結婚したら1本という開け方もロマンティックです。

飲み頃を突き詰めたワイン

「自分で熟成させて確かめるのが面倒くさい」、そんな方にオススメなのは飲み頃に真剣に向き合ったワインを試飲することです。それがドン・ペリニヨンです。

エペルネにあるセラーを訪ねると、驚くほど古いヴィンテージが貯蔵されています。その理由はドン・ペリニヨンに携わる人たちの研究用のためだとか。

ドン・ペリニヨンは3度の飲み頃があるというのが定説で、1度目はリリース直後、2度目が16年ほど経った頃、そして3度目がさらにその先の約25年後です。

「熟成」を意味するPlénitudeの頭文字をとってP2、P3としてリリースされます。「飲み頃」を洗練された形で知りたいという方にはまさにうってつけのワインではないでしょうか。

ベストな飲み頃は人によって違う

最後に「飲み頃」を難しくしているのは、あくまでも飲み手の主観によって決まっているということです。いわゆる「ピーク」を良しとするテイスターもいれば、「ピークのちょっと手前」が好みという人もいるのです。もちろん「ピークの下り坂」を評価する人もいれば、それを「劣化」という人もいます。

ワインが嗜好品である限り、主観的な評価に差があり続けるのは当然のことではないでしょうか。