北部ローヌのテロワールを語る

ヴァレ・デュ・ローヌ、とりわけシラーを主体とした北部ローヌは、カベルネ・ソーヴィニヨンのボルドー、ピノ・ノワールのブルゴーニュと並ぶ銘醸地として知られる。

ローヌの急峻な斜面をテラス状にして植えられたブドウ畑はいつ見ても壮観。コート・ロティ、エルミタージュ、サン・ジョゼフ、コルナス、それにクローズ・エルミタージュ、「クリュ」と呼ばれるこれらのアペラシオンの違いを明確に語るの容易ではないが、今回はあえてそのテロワールの世界に踏み込んでみることにしよう。

コート・ロティ

ローヌ川右岸のコート・ロティに対して左岸のエルミタージュ。北部ローヌを代表するふたつのアペラシオンである。ともに古代ローマ帝国の時代にブドウ畑が築かれたが、世界的な名声を確立したのはエルミタージュのほうが早かった。コート・ロティはフィロキセラや世界恐慌、ふたつの世界大戦を経てブドウ畑が消滅しかかり、真に復活を果たしたのは80年代以降のことだ。

コート・ロティでしばしば使われるのが、「コート・ブリュンヌ」と「コート・ブロンド」という表現だ。かつてコート・ロティの丘の麓の町、アンピュイの領主だったモジロン家にはふたりの娘がおり、ひとりが栗毛、ひとりがブロンドの髪だったという。それで北側の褐色の丘をコート・ブリュンヌ、南側の薄茶色の丘をコート・ブロンドと名付けたとの言い伝えがある。褐色の土地、すなわちコート・ブリュンヌの土壌は雲母の混じったシスト(片岩)、一方、薄茶色をしたコート・ブロンドの土壌はグネイス(片麻岩)である。

よく後者はグラニット(花崗岩)と物の本に書かれていることがあるが、それは正しくない。花崗岩は地下深部でマグマがゆっくり固まってできた火成岩の一種で、片麻岩は花崗岩が高温高圧にさられされて変成作用が生じた変成岩である。そのため花崗岩と片麻岩の鉱物組成はよく似ているが、後者は縞状の紋様を特徴とする。

片岩も変成岩の一種だが、こちらは比較的低温で変成作用が起きたもので板状に割れやすい。風化した時の粒状性は片麻岩のほうが粗く、片岩のほうが細かくなる。したがってコート・ブロンドの表土は砂っぽく、コート・ブリュンヌのほうは粘土っぽい上に鉄分を含んでいる。このような理由から、コート・ロティでもコート・ブロンドは柔らかみがあり、エレガントで女性的。コート・ブリュンヌはタニックで力強く、男性的なワインに仕上がりがちである。もっとも、コート・ロティには白ブドウのヴィオニエを20%まで混植、混醸することが認められており、コート・ブロンドのほうがヴィオニエの植え付け率が高いことも、女性的なスタイルを助長しているのかもしれない。

エルミタージュ

一方、エルミタージュはコート・ロティからローヌ川を50kmほど下った対岸に位置する。ローヌ川はここでちょうどカーブを描き、左岸では珍しく南向きの丘を形成している。

13世紀、アルビジョワ十字軍から帰還した騎士、ガスパール・ド・ステランベルクがこの丘の頂上に庵を開いて隠遁生活を送ったことからエルミタージュの名がついた(隠遁者のことをエルミットという)。わずか137ヘクタールのクリュなので、一様なテロワールでもよさそうなものだが、これがなかなかに曲者。クリマと呼ばれる区画ごとに土壌構成が異なっている。

最も西に位置するクリマを「ベサール」といい、花崗岩由来の土壌をもつ。上部ほど母岩が露出し、中腹から麓では風化した砂や小石が母岩を覆っている。エルミタージュでも肉付きの良い良質の赤ワインを生むクリマとして知られている。

その東隣にあるのが「ル・メアル」。ローヌ川によって形成された河岸段丘の上段にあり、石英などが混じった小石、石灰質の石などがごろごろと転がっている。真南を向いた急斜面のためブドウは非常によく熟し、ポリフェノールも高まる。

その下の「グレフュー」は肥沃な沖積土壌でまろやかで果実味豊かなワインに仕上がる。

さらに東の「ペレア」「レ・ミュレ」はヴュルム氷期(7万~1万8500年前)に形成された河岸段丘に位置し、水はけの良い砂と砂利の土壌から繊細なタイプのワインができる。

このようなクリマごとにワインを造る生産者もいるが、もっともエルミタージュらしいエルミタージュは、複数のクリマをアッサンブラージュしたワインである。力強さの中にもエレガンスを秘め、そして長期熟成に耐え得るワインが生み出される。

余談だがエルミタージュでも白ブドウの栽培が可能で、マルサンヌとルーサンヌが植えられている。エルミタージュの赤ワインは15%まで白ブドウの混醸が可能だが、それを行う造り手は皆無に等しく、ほぼすべての赤ワインがシラー100%。わずかに白ワインと甘口のヴァン・ド・パイユも造られ、18世紀にはエルミタージュの白のほうが赤よりも高く売られていたらしい。

サン・ジョゼフ

サン・ジョゼフはローヌ右岸、シャヴァネ村からギエラン・グランジュ村まで南北60kmにおよぶ大きなクリュであり、ブドウ畑は南、ないし南東向きの斜面に植えられている。

サン・ジョゼフの土壌は概ね花崗岩。ただし、その花崗岩にも粒状性が異なるものや、組成がやや異なるものがある。また北部には片麻岩の土壌をもつ土地もある。とはいえ、コート・ロティのような片岩はまず見られない。畑の傾斜は緩急織り混ざり、その景観はコート・ロティともエルミタージュともまた異なる。

サン・ジョゼフの赤もまた白ブドウのマルサンヌ、ルーサンヌを10%まで混醸することが認められているが、ワインはほぼシラー100%から造られている。造り手にもよるとはいえ、コート・ブロンドのコート・ロティをひと回り小さくしたようなスタイル。一般にトゥルノンやモーヴなど、南部の村のワインのほうが力強い。

コルナス

サン・ジョゼフの南に位置するコルナスは、北部ローヌの赤ワインの中で法律上白ワインの混醸が唯一認められず、シラーのみのクリュ。そのこと自体がコルナスの性格を物語っている。

土壌は北部の一部に石灰質土壌が見られるとはいえ、その大部分が風化した花崗岩土壌で、それだけでいえばむしろエレガントなスタイルになりそうだが、実際にはタンニンが強くパワフルで、ある意味武骨なワインとなりがちである。その理由は、コルナスが最大斜度60度にも達する急峻な斜面をもち、円形劇場のようにえぐれた土地となっていること。ブドウ畑はその斜面の南から東向きの斜面に広がり、日当たりはめっぽうよい。当然、ブドウは果皮が厚くなり、ポリフェノールの含有量は増えるわけだ。

クローズ・エルミタージュ

北部ローヌ最大のクリュがクローズ・エルミタージュ。ローヌ川左岸に位置し、エルミタージュの丘を取り囲むように広がる1500haのクリュである。エルミタージュをグラン・クリュとすれば、クローズ・エルミタージュはさしずめヴィラージュ。南向き斜面にあるエルミタージュに対して、クローズ・エルミタージュの大部分が緩斜面、ないし平地である。

土壌はじつにさまざまで、ローヌ川の運んできた沖積土壌もあれば黄土に覆われた河岸段丘、粘土石灰質土壌の土地や花崗岩を母岩にもつ土地もある。したがって土壌によって品質もスタイルもまちまちなのがクローズ・エルミタージュであり、北部ローヌのクリュの中では最も一貫性に乏しい。美味しいクローズ・エルミタージュを飲みたければ、信頼できる造り手のものを選ぶに限る。