2018年4月、カリフォルニアで最も歴史ある家族経営のワイナリー「ケイマス・ヴィンヤーズ」のオーナー兼ワインメーカー、チャック・ワグナー氏が来日!スタッフ向けセミナーで、ナパ・ヴァレー産カベルネ・ソーヴィニヨンの秘密を語ってくださいました。
ケイマス・ヴィンヤーズとは?
ケイマス・ヴィンヤーズは、1972年設立。ナパ・カベの王道的なスタイルを貫くカリフォルニアで最も歴史ある家族経営のワイナリーのひとつです。
その代表キュヴェ 「スペシャル・セレクション・カベルネ・ソーヴィニヨン」はワインスペクテーター誌が選ぶ「ワイン・オブ・ザ・イヤー」を唯一2度も獲得。また、消費者が選ぶ「ベスト・カベルネ・ソーヴィニヨン」も同様に2度獲得するなど、世界的ワイン評論家ロバート・パーカー氏を持ってして「王の様な存在感」と讃えられる逸品として知られています。
今回はそんなケイマス・ヴィンヤーズのオーナー兼ワインメーカーのチャック・ワグナー氏にナパ・ヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨンについて語って頂きました。
ケイマス・スタイル誕生秘話
ケイマスのワインの特徴と言えば、驚異的な凝縮感を持ち、ソフトな酸とココアパウダーのようなキメ細かいタンニンを備えた味わいで知られ、現地で「ケイマス・スタイル」という言葉が生まれたほどです。
カリフォルニアの確立したスタイルを生み出したケイマスですが、創業当初から現在のようなスタイルだったわけではなかったそうです。「昔のカリフォルニアの生産者は皆ボルドーを意識していた」とワグナー氏は語ります。
しかし2001年を境にワグナー氏はカリフォルニアならではの、いわばカリフォルニアのテロワールを反映したワインを造ろうと決意し、試行錯誤の末に現在のスタイルが誕生しました。
きっかけとなったのは、当時カリフォルニアのカルトワイナリー、ハーラン・エステートの醸造コンサルタントをしていた※ミッシェル・ロラン氏からの「収穫のタイミングは、出来上がるワインの品質を大きく左右するのでよく見極めなさい。」というアドバイスでした。
それを聞いたワグナー氏は、現在行っているカベルネ・ソーヴィニヨンの収穫期を遅らせることを思いついたそうです。
(※)ボルドーを始めとした世界中の超高級ワインの醸造コンサルタントを務める天才醸造家
遅摘みのメリット
果実 の成熟には分析的成熟(糖度や酸度)と生理的成熟(フェノール類)があります。温暖な栽培地では光合成による糖度の上昇や、呼吸による酸の減少(分析的成熟)は早く進みますが、生理的成熟は品種によってある程度スピードが決まっており、あまり気候の影響を受けません。
遅摘みの最大のメリットは、この生理的成熟により渋味や芳香成分の元となるフェノール類の成熟を限界まで高めることが出来ること、そして水分の蒸発によってエキス分の凝縮した果汁を得られることです。
これにより、カベルネ・ソーヴィニヨンの品種特性であるピラジン由来のグリーンなニュアンスを抑え、華やかで香り高く、 熟したキメの細かいタンニンと圧倒的な凝縮感といった「ケイマス・スタイル」が造り出されています。
この手法は海洋性気候で秋口に雨の多いボルドーでは出来ず、地中海性気候で冬まで雨が降る心配がなく、ブドウが成熟するまでじっくりと待てるカリフォルニアだからこそ出来ることで、造られるワインはまさにカリフォルニアらしさ(テロワール)を表現したワインだとワグナー氏は考えています。
品質の追及
近年はテロワールの表現として、単一畑や単一A.V.Aなどブルゴーニュのように小さな区画にフォーカスしたワインがナパでも造られていますが、ケイマス・ヴィンヤーズではそういったワインは生産していません。
ワグナー氏は複数区画のワインをブレンドした方がより高品質なワインが造れると考えている為、ケイマス・ヴィンヤーズのカベルネ・ソーヴィニヨンは標高が高く冷涼なアトラス・ピークから最も内陸で温暖なカリストガまで、ナパ・ヴァレーに存在する8つのA.V.Aをブレンドし、ナパ・ヴァレーの味わいを表現しているのです。「ケイマス・ヴィンヤーズはナパ・ヴァレーのワインだ」という言葉が印象的でした。
そのブレンド比率はヴィンテージにより多少変動しますが、おおむねは骨格のしっかりしたワインを造るヒルサイドのブドウを25%前後、肉付きのよいヴァレーフロアのブドウを75%前後だそうです。
ケイマス・ヴィンヤーズの4種のワインを試飲しましたが、その中でもスタッフを驚かせたワインが2015年 カベルネ・ソーヴィニヨンと2008年 カベルネ・ソーヴィニヨン スペシャル・セレクションでした。
2015年 ケイマス・ヴィンヤーズ カベルネ・ソーヴィニヨンは、淵までギュッと詰まった濃い紫の色調、華やかなスミレ、カシスやブラック・チェリーに、ヴァニラやチョコレートが絡まる甘美なアロマ。良く熟したヴェルヴェットのようなタンニンとバランスが取れた充分な酸味を備えた、とってもエネルギッシュなワインでした。ケイマス・ヴィンヤーズの中でも コストパフォーマンスに優れる1本です。
ワグナー氏によると、トップキュヴェの「カベルネ・ソーヴィニヨン スペシャル・セレクション」と同じワインを収穫後の12月にブラインドテイスティングし、まず最初にスペシャル・セレクションになるべきロットを判断、つぎにこちらの「カベルネ・ソーヴィニヨン」となるべきロットを選択しているそうです。スペシャル・セレクションとして選ばれる割合はなんと全70ロット中6ロット前後 。わずか10%以下です。
スペシャル・セレクション・カベルネ・ソーヴィニヨンは、通常のカベルネ・ソーヴィニヨンを遥かに上回る凝縮感でした。その中でもちょうど10年熟成の2008年産のものは素晴らしい熟成をしています。
10年の熟成により凝縮した味わいがほどけ始めており、ワイナリーの特徴でもあるキメ細やかなタンニンがより洗練されシルクのように、熟成香に負けない果実のアロマが芯にある複雑な香りは、さながらグレートヴィンテージのボルドーのグラン・ヴァンのよう。
ワグナー氏によると「カベルネ・ソーヴィニヨン スペシャル・セレクション」は10年ほどで飲み頃に入り、ここから飲み頃が長く続くそうです。
まとめ
ナパ・カベ愛好家を絶対に裏切らない、王道スタイルを行く「ケイマス・ヴィンヤーズ」のワインは、ナパの気候や畑の特徴を忠実に表現したテロワールのワインということがわかりました。
チャック・ワグナー氏、貴重なセミナーありがとうございました!