今、イギリスが熱い!「イングリッシュ・スパークリングワイン」

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「イギリスには心躍るワインがある」。このように言えば、きっと20年も前ならばウソに決まっていると一蹴されたかもしれません。しかし今では、誰もが羨むスパークリング王国に変貌を遂げたのです。

先日、エリザベス女王とトランプ大統領が乾杯を交わしたのも英国産ワインだったことはあまりにも有名です。実はここのところ英国王室ではシャンパンではなくイングリッシュ・スパークリングで国賓をもてなすのが定番化していることをご存知でしょうか。

一体どのようなワインなのか、今回はイングリッシュ・スパークリングワインについて解説します。

イギリスのワイン史

イギリス

イギリスのワイン造りは6世紀に遡ることができます。しかし冷涼すぎるせいか、なかなか発展することはなく、代わりに中世から18世紀にかけてはボルドーやポルトガルなどと親密な関係を結び、他国から取り寄せ消費していました。

イングリッシュ・スパークリングワインが話題に上るようになったのは今から10~20年前のことです。現在では、ロンドンの南東部を中心にワイン造りが行われ、生産者はすでに約540軒(日本は約280軒)、生産量の約66%がスパークリングワインとなっています。

専門家によれば、この勢いは留まることを知らず、2080年には英国全土でワインが生産されるようになるとまで推測されているのです。

ブドウ品種の変遷

ブドウ

1980年代までは、ミュラー・トゥルガウやバッカスなどのドイツ交配品種、セイベル・ブランといったハイブリッド種からフルーティなワインが細々と造られていました。

しかし近年は、シャンパンでも用いられるシャルドネやピノ・ノワールが主流となっています。この二つのブドウは早熟なので冷涼産地に向きますが、これまでのイギリスは極寒で不適切というのが本音でした。しかし、地球温暖化の影響で徐々にピノ・ノワールやシャルドネの適地に変わってきたのです。

シャンパンの造り手も注目するテロワール

イギリスのブドウ畑

ブドウ畑は、ロンドン南部のケント州、イースト・サセックス州、ウェスト・サセックス州などを中心に広がります。緯度は49~61度。ブドウ栽培に適す緯度が一般的に30~50度ということを鑑みるに、かなり高緯度です。

しかし上述の地球温暖化に加え、メキシコ暖流の影響でいくらか寒さが緩和されています。

土壌は一部が、シャンパーニュと同じ白亜質土壌で形成されており、似たテロワールの要素をもっているということは造り手にとって大きな魅力となっているのです。

実際、これらのテロワールに目を付けているシャンパーニュメゾンは多く、テタンジェポメリーはすでに新地に進出していますし、それ以外のメゾンの視察も頻繁に行われ、その度にメディアで大きく報じられています。

しかしそんな冷涼産地の脅威は春霜です。

イギリスも例外ではなくこの霜が問題となっています。春霜は5月第2週目ぐらいまでに降るのが一般的で、もし霜が降りたならば萌芽した芽が枯れて台無しになってしまいます。通常は芽が2~3個あるので、枯れてしまえば2番目の芽が出てくるのですが、その品質は1番目のものに及ばないのが困りものです。

2017年には75~80%の生産を失ったという生産者もいました。

期待が高まる新天地ですが、決してバラ色ではないというのが現状でしょう。

瓶内二次発酵方式が向くワケ

イギリスではシャンパンとの共通項を活かした、瓶内二次発酵方式によるスパークリングワインが主流です。

冷涼産地がこの製造方式に向くのは二つの理由があります。

一つは二回のアルコール発酵を行うので果汁中の糖度が低いワインのほうが良いこと。二つ目に瓶内二次発酵方式では長い工程を経るため、ベースワインの酸が高いほど、微生物学的に安定した醸造・貯蔵が行えることです。

これだけは知っておきたい有名生産者

ナインティンバー

これまで説明してきたイングリッシュ・スパークリングワインの名を最も早く世界に轟かせたの生産者が「ナインティンバー」です。

2009年、イタリアで開催されたコンペティション「ボリッチーネ・デル・モンド」で、ボランジェルイ・ロデレールに打ち勝ち世界を驚かせました。

エリザベス女王が所有する公園内の南向きの斜面から造られるウィンザー・グレート・パークも人気が高まっています。個人プロジェクトも盛んで、評論家スティーブン・スパリュアはブライド・ヴァレーを、アクサ・ミレジムの社長クリスチャン・シーリーもコート&シーリーを所有しています。

イングリッシュ・スパークリングワインの展望

スパークリングワイン

イングリッシュ・スパークリングにますます期待が高まる理由は三つあります。

一つは巨大都市ロンドンの近郊に位置すること。そこには著名MWや評論家が居住していることは他国にない大きなアドバンテージでしょう。

二つ目はシャンパンと比べ地価が半分以下であること、三つ目にシャンパンにおいては気候変動で酸が低くなりつつあることが懸念されていますが、イギリスではそういった心配はなく高い酸を保てることです。

その一方で課題もあります。まず挙げられるのが、サイトセレクションの難しさです。標高の高すぎる場所や風が強い場所はいくら地球温暖化が進んでいるといっても適しているとは言えません。

二つ目に資金力の問題です。シャンパンは気候の変動をリザーヴワイン(過去のワイン)の蓄積とブレンドで補っています。このリザーブワインを使うためには造り手に潤沢な資金力が求められます。加えて長期に及ぶ瓶内熟成が一般的なのでキャッシュフローの問題を起こしやすいということです。シャンパンと比べてイギリスは個人プロジェクトや小規模生産者が多く、そういった資金繰りという問題点をクリアできるかが今後注目されているのです。

瓶内二次方式から造られたワインがシャンパンやフランチャコルタだけでなくイングリッシュ・スパークリングワインという新しい選択肢が増えたのは嬉しいものです。これからの進化にもさらに期待が高まります。