ワインボトルの形や色には、実は大きな意味があることをご存知ですか?普段何気なく手に取るワインボトルにも、歴史や用途に合わせて多様なデザインが施されています。
この記事では、ワインボトルの形や色の違いとその理由をソムリエの解説を交えてわかりやすくご説明します。
ワイン選びやその魅力をより深く理解できるよう、ボトルの種類を見極めるポイントも紹介していきますので、ぜひ参考にしてみてください。
解説してくれるのは、紫貴あきさん
ワイン講師 日本最大級ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」の人気講師。初心者から上級者まで唸らせる質の高いレッスンが評判で、その指導実績は3500人超。その他、企業研修、メディアへの執筆・監修・取材協力、出演など幅広く活動している。 著書『キャラクターでわかるワイン図鑑』(かんき出版)を2024年12月4日に出版。
目次
ワインボトルの種類
ワインボトル、よく見たらいろんな形があると思いませんか?
ワインボトルの形状には、それぞれの地域やスタイルに対応した特徴があります。ボトルを見るだけで、どの地域のワインか、どんな特徴があるかを推測できるのです。
必ずしもボトルの特徴とワインの味わいが一致するわけではありませんが、大まかな目安として参考にしてみてください。
ボルドー型
フランス・ボルドー地方を代表するワインで多く見られる、肩が張った形状が特徴のボトルです。
ボルドーではタンニンが豊富なカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロを主体にしたワインが多く生産されています。これらのワインは熟成を経ることで、タンニンが結合し澱(おり)が発生することがあります。この澱がワインと一緒にグラスに入ってしまうと、味わいや舌触りが残念なものになってしまうため、注ぐときにボトル内で留まりやすくなるよう設計されています。
ボルドー以外の地域で造られる重ための赤ワインも、このような形状をしていることが多いです。
ボルドー型を「いかり肩」というのに対し、ブルゴーニュ型は「なで肩」と表現することがあります。
ブルゴーニュ型
フランス・ブルゴーニュ地方のワインは、なだらかな傾斜を持つ肩と丸みを帯びた形状が特徴です。
昔のブルゴーニュ地方では、貯蔵庫が狭くスペースに限りがありました。そのため、上下互い違いに収納しやすい「なで肩」の形状が採用されるようになったとされています。
ブルゴーニュはピノ・ノワールの赤ワインや、シャルドネで造られた白ワインが有名です。上品でエレガントなワインが飲みたい場合は、このボトルを探してみてください。
シャンパーニュ型
シャンパンをはじめとするスパークリングワインには、ブルゴーニュ型と似た「なで肩」の形状が多く見られます。また、ボトルネックが長くボトル下部がずっしりと太くなったものなどもあります。
シャンパーニュ型は、分厚く頑丈なガラスで作られているのが特徴です。これはスパークリングワインに含まれる炭酸ガスの圧力に耐えられるようにするためです。
ライン型/モーゼル型
ドイツのラインガウ地方やモーゼル地方で造られるリースリングのワインボトルは、背が高く、細長い形状で肩がほとんどないデザインをしています。
フランスのアルザス地方では、かつてドイツ領だった歴史的背景から、ドイツとほぼ同じ形のボトルが使用されています。
さっぱりとして酸味が感じられる白ワインが飲みたい日は、スリムなボトルを選んでみるといいかもしれませんね。
ボックスボイテル
ボトルネックから下がふっくらと円状に膨らんでいるワインボトルをボックスボイテルといいます。
この形の粘土を原料としたボトルは、古くから長距離移動する際にベルトから下げるのに邪魔にならないとして、人々に親しまれていました。
18世紀、ドイツ・フランケン地方のワイナリーは悪徳業者の偽ワインと区別するため、市議会でボックスボイテル型のボトルを採用することを決定しました。1989年以降はフランケンの上級ワインの商標として登録されています。
<番外編>ジョージアのワインボトル
ワイン発祥の地と名高いジョージアでは、地中に埋めたクヴェヴリという陶器にワインを注いで発酵させます。また、アンフォラという取っ手のついた陶器に入れてワインを運搬することもあります。
ジョージアでは、瓶型のワインボトルも普及していますが、アンフォラやクヴェヴリをモチーフにしたデザインや、地元アーティストが手掛けた装飾的なボトルも多く見られます。
ワインボトルの色
ワインボトルの色は、ただのデザインではなく、ワインを保護し、その特性を引き立てるための重要な要素です。
ワインボトルの中で最も一般的なのが緑色。ワインは紫外線や光で劣化しやすいため、緑色はこれを防ぐ役割を果たします。
一般的に、青、緑、茶色の順に遮光性が高くなっていきます。そのため、熟成向きのワインは特に、茶色のボトルが多いのです。
一方で透明のボトルも見かけますよね?ロゼワインやオレンジワイン、白ワインはその色合いや美しさを視覚的に楽しむために透明なボトルが選ばれます。
透明なボトルは光の影響を受けやすいため、長期保存には向きません。そのため早期に消費することが前提のワインに使用されます。
ワインボトルにまつわる5つの謎
ここまでワインボトルの形状と色についてお伝えしました。ワインボトルの基本は抑えられたかと思いますが、まだまだ疑問があるはず。
ワインボトルにまつわる5つの謎を紫貴さんに教えてもらいました。
1.ワインボトルはどうして750mlなの?
ワインボトルの容量が750mlなのには、いくつかの説があります。昔の吹きガラス技術では、均一に作れるサイズが750mlくらいだったという説が一つ。 また、750mlだとワイングラスに6~7杯分注げるので、当時のヨーロッパで家族や小さな集まりにちょうど良い量だったという説もあります。 しかし、一番有力なのはイギリスとの関係です。18世紀から19世紀にかけて、ボルドーワインはイギリスでとても人気がありました。ワインを輸出するときは「ガロン」というイギリス独自の容量単位で取引されていました。 1ガロンは約4.546リットルで、この量を効率よく分けるために、750mlのボトルが便利だったのです。750mlのボトルを12本入れたケースは9リットル、ちょうど2ガロンになり、計算がしやすかったのが理由の一つとされています。
2.ボトル1本で何杯とれるの?
レストランでワインをグラスで注文すると、たいてい100mlくらい(それより少し多めのこともあります)注いでくれます。ですから、ボトル1本から6~7杯分注げると覚えておくと便利です。 また、ボトルにはいろいろなサイズがあり、ときどき1500ml入りの大きなボトルを見かけることもあるでしょう。このサイズは「マグナムボトル」と呼ばれ、通常のボトルの2倍の量が入っています。グラスに注ぐと14~15杯分くらいになります。このボトル、華やかで目を引くので、パーティーやイベントではぴったりです。 ちなみに、ワインを楽しむだけでなく、品質を評価したり試飲をしたりする場合は、50mlがちょうどいい量とされています。そのため、ワインスクールでは50mlずつ注ぐことが一般的です。この場合、1本のボトルから約14杯分取れるので、仲間と勉強会をする際の目安にしてみてください。
3.瓶底がへこんでいるのはなぜ?
ワインの瓶底がへこんでいるのには、歴史や実用性に関わる理由があるようです。 昔、ガラス瓶が手作りだったころ、底をへこませることで、製造中にできる接合部分や厚みのムラを目立たなくすることができました。この工夫が今でも受け継がれ、伝統的なデザインとして残っているという説があります。 実用的な面では、三つの理由がよく知られています。まず、瓶の底をへこませることで全体の強度が高まります。特にスパークリングワインのように中にガス圧がかかるものには、強い瓶が必要なのです。 次に、赤ワインは時間が経つと澱という沈殿物がたまりますが、底がへこんでいると、澱がそこに集まり、注ぐときに混ざりにくくなります。 最後に、ソムリエが瓶を持つとき、へこんだ部分に親指をかけると安定して注ぐことができます。特に大きな瓶やスパークリングワインでは、この持ち方がとても便利です。 こうした理由から、瓶底のへこみは昔も今もワインの楽しみを支える大切な工夫なのです。
4.同じサイズのワインボトルでも重さが違うのはなぜ?
同じサイズのワインボトルでも、重さが違うのにはいくつかの理由があります。それは、ボトルの厚みや材質の違いによるものです。 厚みがあるボトルは、温度の変化を防ぎやすく、ワインの熟成を安定させるのに役立ちます。そのため、長期熟成を目指したワインには、しっかりした重いボトルが使われることが多いのです。また、スパークリングワインでは、高いガス圧に耐えるために特に厚みのあるボトルが必要です。さらに、プレミアム感を出したい生産者が、あえて重いボトルを使うこともあります。 一方で、最近は環境への配慮が進み、軽いボトルが増えています。軽量化されたボトルは、輸送時のCO2排出を減らし、コスト削減にもつながります。高級ワインでも軽いボトルを採用する動きがある一方で、伝統的に重いボトルを使い続けるワイナリーもあります。 つまり、ボトルの重さの違いは、ワイナリーがどんな方針を大切にしているかによって決まるのです。
5.スクリューキャップとコルクの違いはなに?
コルク栓は、コルクガシという木から作られています。そのため、この栓を使うと、少しずつ空気がワインに入るので、時間をかけて味わいが変化していくのを楽しむことができます。さらに、コルクを抜くときの「ポン」という音も気分を盛り上げてくれる魅力の一つです。 ただし、ときどき「ブショネ」というコルク臭(※)がワインについてしまうことがあり、これが欠点と言われています。しかし最近では、ブショネが出にくいスーパーコルク(例:DIAM、NDTech)も登場しています。 一方で、スクリューキャップはブショネの心配がありません。そして、特別な道具がいらず、誰でも簡単に開けられるのが嬉しいポイントです。 スクリューキャップは「早く飲むワインに向いている」と思われがちですが、最近では酸素を通す量をコントロールできる技術も進化しています。そのため、長期熟成用のワインにスクリューキャップを使う生産者も増えてきました。
※ 汚染されたコルクによりボトル内のワインの品質が劣化してしまうこと。
ワインボトルの歴史とこれから
ワインの容器は、ワインの保存や輸送、文化的な進化とともに発展してきました。最後に古代から現代までのワインボトルの歴史を解説します。
古代のワイン容器
ワインが誕生したとされる紀元前6000年頃、ワインの保存には粘土製の壺や陶器が使われていました。
その代表格が、前述したジョージアの「クヴェヴリ」と古代ギリシャやローマの「アンフォラ」です。
クヴェヴリは地中に埋めて使用する大きな壺で、ワインの発酵と保存を一体的に行うための容器として広く用いられました。アンフォラは取っ手付きの細長い陶器の容器が使われており、特に船での輸送を考慮した設計がなされていました。
17世紀:ガラスボトルの登場
17世紀に入り、ガラス製造の技術が発展すると、ガラス製ボトルも浸透しワイン保存の歴史に大きな変化が訪れました。
厚手のガラス製ボトルはそれまでの陶器や粘土容器に比べて丈夫で、密閉性を高めるコルク栓との組み合わせによって、ワインを長期間保存し、熟成させることが可能になりました。
このガラスボトルの普及によって、ワインの品質は飛躍的に向上し、輸送効率も改善され、ワイン文化がより広く発展するきっかけとなりました。
20世紀:現代のワインボトル
20世紀に入ると、ワインボトルはさらなる進化を遂げ、実用性と多様性を兼ね備えた形になりました。
環境意識の高まりを受けて、近年ではリサイクル素材を使った軽量ボトルが登場し、スクリューキャップがコルクの代替品として広く採用されています。これにより、開封の手軽さと保存性が両立されるようになりました。
伝統と革新が共存する現代のワインボトルは、機能性だけでなく、環境への配慮やデザイン性も重要視される時代へと移り変わっています。
ソムリエ解説!今後、ワインボトルはどのように進化していく?
これからのワインボトルは、もっと環境に優しい形に進化していきそうです。まず注目されているのが軽量化です。上述の通り、軽いボトルは輸送時に使うエネルギーを減らし、CO2排出を抑えるのに役立ちます。地球にやさしいだけでなく、運びやすいというメリットもあります。 次に、再利用可能な容器も普及していくでしょう。例えば、瓶を返却して洗浄し、再び使う仕組みが広がれば、ガラスの使用量を減らすことができます。一部の地域では、すでにリユース可能な瓶が利用されています。 さらには、ガラス以外の素材も注目されています。リサイクル可能なプラスチックやアルミ缶など、軽くて環境に優しい容器が試されています。こうした容器はBBQなどのアウトドア、旅先、パーティーなど幅広いシュチュエーションにも便利です。 世界的に、単にワインを楽しむだけでなく、地球の未来も考える動きが進んでいます。これからは、より多様なボトルの選択肢が広がっていくでしょう。
まとめ
ワインボトルの形状や色には、ワインの種類や産地、保存性への工夫など、多くの意味が込められています。これらの特徴を知ることで、ワイン選びのヒントになるでしょう。
ぜひこの記事を参考に、ワインボトルの奥深さを楽しみながら、自分にピッタリの1本を見つけてください!
文=川畑あかり