ワインのボトルを手に取ったとき、その中身がどんなワインなのかどう判断していますか。きっとラベルの情報が大きな手がかりになると思います。
ですが、ラベルが英語ならまだしも、フランス語やイタリア語でびっしり書かれていると、ワイン初心者にとっては少しハードルが高く感じられるかもしれません。「これが読めたら、もっとワイン選びが楽しくなるのに…」と思ったことはありませんか?
今回は、ワインのラベル(エチケット)に注目し、その読み解き方や「ラベル」と「エチケット」の違いについて、ソムリエの解説とともに分かりやすくご紹介します。
解説してくれるのは、紫貴あきさん
ワイン講師 日本最大級ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」の人気講師。初心者から上級者まで唸らせる質の高いレッスンが評判で、その指導実績は3500人超。その他、企業研修、メディアへの執筆・監修・取材協力、出演など幅広く活動している。 著書『キャラクターでわかるワイン図鑑』(かんき出版)を2024年12月4日に出版。
目次
どうして「エチケット」と呼ぶの?
突然ですが皆さんはワインボトルに貼られている情報シールのことを何と呼んでいますか?
「ラベル」と呼ぶ方もいれば、「エチケット」と言う方もいるかもしれません。一体どちらの呼び方が正しいのでしょうか。呼び方について紫貴さんに教えてもらいました。
「ラベル」と「エチケット」、どちらの呼び方が正しいのか迷ってしまいますよね。結論から言ってしまえば、どちらの呼び方も正解です。 「エチケット」はフランス語が由来で、英語の「ラベル」と意味はほぼ同じです。 では、なぜ「エチケット」と呼ばれるようになったのでしょうか。もともとフランス語の「エチケット」には「札」という意味があり、さらに宮廷文化の中では“格式”や“礼儀作法”を示す「案内札」としても使われていました。そのため、ワインの“顔”ともいえるラベルが、そのワインの格や伝統を伝えるものとして、「エチケット」と呼ばれるようになったのです。 フランスワインを多く扱うお店やレストランでは、「エチケット」という言い方をするソムリエも多く見られます。
ラベル(エチケット)には何が書かれているの?
ではラベルには一体、どんな内容が書かれているのでしょうか。ラベルに含まれる情報について紫貴さんに教えてもらいました。
ワインボトルに貼られているラベルは、ワインの“名刺”のようなものです。 「はじめまして」と名刺をもらったとき、名前や肩書き、会社名などを見て「どんな人なんだろう」と想像したことはありませんか。ワインもそれと同じで、ラベルを見ると、香りや味わいがなんとなくイメージできるのです。 というのも、ラベルには、ワインが「いつ・どこで・だれによって」造られたのかが、しっかり書かれているからです。たとえば「2021年、フランス・ブルゴーニュ地方で、○○さんという生産者が手がけました」といった具合です。他にも、使われているブドウ品種や、アルコール度数などの情報が書かれていることもあります。 おもしろいのは、名刺と同じように、ラベルのデザインもさまざまなところです。クラシックなものもあれば、思わず二度見してしまうようなポップなデザインも。CDを“ジャケ買い”するように、ワインも「ラベルにひとめぼれ」で選んでみるのも楽しいかもしれません。
ラベル(エチケット)を読むのが難しい理由
名刺と同じく情報が詰まっているラベル。しかしラベルを見た時、「これ、何のこと?」「あれ?このラベル、品種が書いてない…」と戸惑ったことはありませんか?
どうしてラベルを読むのが難しいのか、その理由を紫貴さんに教えてもらいました。
ワインのラベルは、国や地域によって表記のルールがまちまちで、世界共通のフォーマットが決まっていないので、ラベルを読むのが難解なのです。 例えば、フランスなど伝統的な産地の高級ワインでは、「Chablis(シャブリ)」や「Vosne-Romanée(ヴォーヌ・ロマネ)」といった産地名が大きく書かれていて、ブドウ品種が書かれていないこともよくあります。 さらに「Classico(クラシコ)」「Brut(ブリュット)」など、独特の専門用語がさらりと書かれていて、混乱してしまうことも。しかも、それらがフランス語やイタリア語など、なじみのない外国語で表記されていると、読むだけで頭が痛くなってしまいそうですね。 加えて、最近ではデザイン重視で、あえて情報を最小限にしたスタイリッシュなラベルも増えてきており、初心者にとっては、中身を読み解くのがますます難しく感じられるかもしれません。
どうして国によってラベル(エチケット)の表示が異なるの?
では、こうした国によってラベルの表示に差が出てくるのはなぜなのでしょうか。
ワインのラベルを見比べてみると、国によって書かれている内容が違うことに気づくかもしれません。これは、ワインに関する法律やルールが国ごとに異なっているためです。 例えば、フランスやイタリアなどの伝統的なワイン生産国では、「どこで造られたか(=産地)」が重視されており、ブドウの品種がラベルに書かれていないこともよくあります。これは、「ワインの個性は土地によって決まる」、つまり産地の特徴こそが大切という考え方が根底にあるからです。 一方、アメリカやオーストラリアなど、ヨーロッパ以外の国では、使用されているブドウの品種をラベルにしっかり明記するのが一般的です。これらの国々では、産地も大事にしながら、「品種の違いがワインの個性をつくる」という価値観が根づいています。 このように、それぞれの国の文化やワインに対する考え方が、ラベルの表記にも表れているのです。
初心者におすすめなのは「新世界」のラベル
ワイン選びに迷ったときは、アメリカやオーストラリア、チリなどヨーロッパ以外の国のワインがおすすめです。その理由は、これらの国のラベルには、上述の通り、ブドウの品種がはっきりと書かれていることが多いからです。 品種とは、簡単に言えば「ブドウの種類」のこと。例えば「リースリングは軽やかで、酸が高くさわやか」「シラーはスパイシーな香りが特徴」など、それぞれに個性があります。 つまり、ラベルに品種名が書かれているだけで、ワインの味わいをある程度想像できるのです。想像ができれば、「今日は暑いから、さわやかなリースリングにしよう」など、気分やシーンに合わせて選ぶこともできますよ。 「どんな味かわからない…」と迷ったときは、まず品種名が書かれたラベルをチェックしてみてください。きっと、お気に入りの1本を見つけるヒントになるはずです。
新世界のワインラベルについて
それでは、新世界のラベルについて一緒に見ていきましょう。
新世界のラベルのデザインはポップで現代的なものが多く、旧世界のラベルと比べると文字数が少ないため、よりカジュアルな印象があります。
ラベルが視覚的に分かりやすく、専門知識がなくても知りたい情報が載っているため、手に取りやすいという利点があります。
①KENDAL-JACKSON
→ブランド名
②VINTNER’S RESERVE
→シリーズ名
③ZINFANDEL
→原料ブドウ品種
④JACKSON ESTATE・VINEYARD STEWARDSHIP
→生産者名 (自社管理ブドウ畑所有)
⑤NORTH COAST
→生産地(AVA名)
⑥2018
→原料となるブドウの収穫年
旧世界のワインのラベルを読み解くコツはとは?
読みにくいとは言いつつも旧世界のワインラベルもわかるようになりたいですよね?
紫貴さんに旧世界のワインラベルを理解するためにおさえておきたいポイントを聞きました。
フランスやイタリアなど、ヨーロッパの国々などの旧世界のワインのラベルには、産地名が大きく書かれていても、ブドウの品種が記載されていないことが多くあります。そのため、初心者の方には少し難しく感じられるかもしれません。 そんなヨーロッパのワインを楽しむコツは、まずは産地名を少しずつ覚えていくことです。例えば「Bordeaux(ボルドー)」と書かれた赤ワインには、メルロやカベルネ・ソーヴィニヨンを使ったしっかりした味わいのものが多くあります。また「Bourgogne(ブルゴーニュ)」とあれば、ピノ・ノワールを使った、軽やかなタイプが主流です。 つまり、「産地名=使われている品種や味わいのヒント」になるというわけです。この考え方は、イタリアやスペインなど、ほかのヨーロッパ諸国にも当てはまります。 産地と品種の組み合わせが少しずつわかってくると、ラベルを見るだけで味わいがイメージしやすくなります。ショップに足を運んで、店員さんに質問してみるのもおすすめです。
ボルドーワインのラベルの読み方
ボルドーワインに限らず、A.O.C.ワインには「義務表示」(必ずラベルに書かなくてはいけない情報)があります。表ラベルまたは裏ラベルのどちらかに、次の5つの項目を表示することが決められています。
① 原産地呼称名(A.O.C.名)
ワインの原料であるブドウの産地。「Appellation d’Origine Contrôlée」(アペラシオン・ドリジーヌ・コントーレ)といい、「d’Origine」の部分に産地名が入ります。
② 原産国名
「produit en France」「produit de France」「vin de France」など、フランスが原産国である旨が書かれています。
③ 瓶詰め元名と住所(生産者と住所)
シャトー所有のブドウ畑で収穫されたブドウを用いて醸造され、瓶詰めまで一貫生産されたワインには「Mis en Bouteille au Château」と記載されています。
④ 容量
通常の750mlサイズのボトルであれば「750ml」もしくは、「75cl」と書かれています。
⑤ アルコール度数
なお、ヴィンテージ(収穫年)の表示は必須ではありませんが、もし記載する場合は、その年に収穫されたブドウが85%以上使われている必要があります。
それでは、シャトー・ラフィット・ロスチャイルドのラベルを例に、どのように表示されているか見てみましょう。
①MIS EN BOUTEILLE AU CHÂTEAU
→シャトー元詰め
②CHÂTEAU LAFITE ROTHSCHILD
→瓶詰め元名=生産者であり、ワイン名(銘柄)
③2001
→ヴィンテージ 原料となるブドウの収穫年
④PAUILLAC
APPELLATION PAUILLAC CONTRÔLÉE
→原産地呼称名
シャトー・ラフィット・ロスチャイルドの所在地はポイヤック村
原産地呼称も「A.O.C.ポイヤック」
⑤12.5%
→アルコール度数
⑥750ml
→容量
旧世界のラベルには使用されているブドウ品種の記載がないため、自分で調べる必要があります。ただし、画像のA.O.C.ポイヤックはカベルネ・ソーヴィニヨンを主体に造られていることが一般的です。こうした基本を知っていれば、たとえ詳しい銘柄を知らなくても、おおまかな味わいをイメージしやすくなります。
ブルゴーニュワインのラベルの読み方
ボルドーワインと基本的に同じですが、以下のようにブルゴーニュのA.O.C.ワインにもラベルの表示義務があります。
① 原産地呼称名(A.O.C.名)
ワインの原料であるブドウの産地。「Appellation d’Origine Contrôlée」(アペラシオン・ドリジーヌ・コントーレ)といい、「d’Origine」の部分に産地名または、「Premier Cru」などの畑の等級が入ります。
② 原産国名
「produit en France」「produit de France」「vin de France」など、フランスが原産国である旨が書かれています。
③ 瓶詰め業者名
「Mis en bouteilles par」の後にそのワインを瓶詰めした業者の名前が記載されます。ドメーヌ(自ら所有するブドウ畑で収穫されたブドウを用いて醸造され、瓶詰めまで一貫生産する生産者のこと)が元詰めの場合は「Mis en bouteilles au domaine」と記載されます。
④ 容量
通常の750mlサイズのボトルであれば「750ml」もしくは、「75cl」と記載されています。
⑤ アルコール度数
それでは、ブルゴーニュで最も有名なワイン、ロマネ・コンティのラベルで確認してみましょう。
①MONOPOLE
→単独所有畑(原料となるブドウ畑を生産者が単独で所有しているという意味)
②2009
→ヴィンテージ 原料となるブドウの収穫年
③SOCIETE CIVILE DU DOMAINE DE LA ROMANÉE-CONTI
PROPRIETAIRE A VOSNE-ROMANÉE <COTE-D’OR> FRANCE
→生産会社名と所在地、原産国
④ROMANÉE-CONTI
→ワイン名(銘柄)であり、原産地呼称名(特級畑名)
⑤APPELLATION ROMANÉE-CONTI CONTRÔLÉE
→原産地呼称「A.O.C.ロマネ・コンティ」
⑥6465 BOUTEILLES RECOLTEES
→生産本数 6465本
⑦BOUTEILLE NO.03170
→ボトリングナンバー
⑧ANNÉE 2009
→原料となるブドウの収穫年
⑨LES ASSOCIES GERANTS
→共同代表者
⑩オベール・ド・ヴィレーヌとアンリ・フレデリック・ロック
→2名の署名
⑪MISE EN BOUTEILLE AU DOMAINE
→ドメーヌ元詰め
まとめ
ラベルは、ワインにとって名刺のようなもの。どんな味わいかをイメージさせてくれるだけでなく、「いつ・どこで・誰が」造ったのか、その生い立ちまでも語ってくれる大切な情報源です。
もちろん、デザインで“ジャケ買い”するのもワイン選びの楽しみの一つ。でも、ラベルの情報が少しでも読み取れるようになると、自分好みの1本に出会える確率がグッと高まるかもしれません。