奇怪な用語が飛び交うワインテイスティング。フルーツや花ならまだしも、スパイスに、ミネラル、焦げ香??しまいには動物臭?!ですが、これにはきちんと意味があるのです。ソムリエ目線で、毎回難解なテイスティング用語や表現などを解明!
あなたもイメージを膨らませてテイスティングに挑戦してみてはいかがでしょうか。
「ボルドーのニュースについて話して欲しい? その新しさとは、いつからいつまでの期間を指して言っているのか?」
ドゥニ・デュブルデュー教授。ボルドー大学醸造学において白ワインの権威として、「ボルドーの赤ワインはブルゴーニュに匹敵するが、白は大きく及ばない」と言われていた白ワインの品質向上に大きく寄与されました。ドワジー・デーヌ、クロ・フロリデーヌなどワイナリーを所有し、著名グランクリュ・クラッセシャトーのコンサルティングを務めるなど、その功績は計り知れないものです。そんなデュブルデュー氏の言葉です。
ボルドーワイン振興団体が主催したセミナー前の打ち合わせでのやり取りでした。私はテイスティングコメンテーターとして、居合わせたのです。主催者の「何かニュースを話して欲しい」という言葉が引っ掛かったのでしょう。確かに「新しさ」はいつの時代の新しさなのかを前提に理解すべきことです。フランス料理界に「ヌーヴェル・キュイジーヌ(直訳:新しい料理)」という言葉があります。1970年代に起きた、料理革新で、新鮮な食材を活かし、短時間で優しい加熱法、軽めのソースを用いた料理が席巻し、その時代の寵児がポール・ボキューズでした。つまり現代、新しい料理をヌーヴェル・キュイジーヌと表現するのは時代錯誤ともいえるのです。
「よし歴史の話をしよう」、デュブルデュー教授はPCを開くと手際よく適当な資料を取り出し、セミナーを始めました。
Old School,New School
GiantStepsYarra ValleyPinotNoir2021は、色は明るいルビー、わずかにモヤがかかっています。よく熟していて、広がりのある香りは緻密さがあり、鮮やかな果実香、軽く潰したサワーチェリー、スイートスパイス、セイヴォリーハーブ、鉱物や鉄分質のミネラルのタッチ。ハンズオフ(人為的介入を控えた)の造りがよく表れています。味わいはクランチーかつジューシーな食感、際立った酸味がボディをリフトし、直線的なストラクチャーをつくり、シルキーなタンニンが長い余韻となります。
オーストラリアで、Old School/NewSchoolという言葉を聞きました。ニューワールドと呼ばれる生産国でも、新旧のスタイルが存在するということです。
オーストラリアの温暖で日照量が豊富、乾燥した気候が育む、過熟ぎみで、アルコール度数が高く、たっぷりした甘みのボリューム感のあるワインという従来のイメージが(この「従来の」という言葉も時が進むにつれ変わってゆくものですが)Old School、より冷涼な環境で生まれ、ピュアで清涼感があり、スムースでバランスに長けた味わいのエレガントなワインが、New Schoolと称されました。
Giant StepsはまさにNewSchoolの筆頭だったわけですが、ファーストヴィンテージから20年が経ち、スタイルの変換が特に活発なオーストラリアではさらに新たな世代が台頭し、多様性はますます富むばかりです。このワインからは、どこかホッとさせる、安心感のある、クラシックなピノ・ノワールの雰囲気を感じることができました。
この造り手にはもう「New」という言葉は適切ではないように思えたのでした。常に時代は変わり、新旧が存在するものですが、「古きを知りて、新しきを知る」、ニュースを求められて、歴史を語ったデュブルデュー教授の真意とセピアおびた記憶が脳裏に鮮明に蘇るテイスティングとなりました。
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ジャイアント・ステップスは、冷涼な気候における単一畑の素晴らしいピノ・ノワール、シャルドネを手がけるワイナリー。口に含むと丸みを帯びた滑らかな口当たりと、ジューシーな果実味を感じます。透き通ったピュアな味わいが魅力の1本です。
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