自然派ワインの秘められた魅力

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公開日 : 2023.1.16
更新日 : 2023.7.12
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ブドウ

自然派ワインには、飲み手の心を揺さぶる静かなるパワーが秘められている。実際、「ワイン好き」と公言する人の中には、熱狂的な自然派ワインファンもいる。


しかし、その線引きは曖昧でヴェールに包まれている。そこでここでは、その言葉が使われ始めた背景や、定義などについて紹介していこう。

目次

自然派ワインは流行ものか

ワインで乾杯

人類で初めてワインを造ったのは誰か。その答えは旧約聖書に載っている。


その人物こそ「ノアの方舟」のノアなのだ。ノアが造ったワインがどんなワインだったろう。


その時代には機械も亜硫酸もなかったのだから、今でいう「超自然派ワイン」だったに違いない。もしかすると濁っていたかもしれないが、きっと旨味たっぷりで、ブドウ果汁そのものを頬張っているような活力のある味わいだったのだろう。


『Natural Wine』の著者のイザベル・レジュロンMWは「自然派ワインは決して新しいものではない。かつてすべてのワインは自然派ワインだったのだ。」と述べている。そう、自然派ワインは流行ではなく、昔からあったものなのだ。

過去から学ぶ

ブドウ畑

「自然派ワイン」の言葉が使われ始めるようになったのは約30年前のこと。その背景には何があったのだろうか。


戦後、ありとあらゆる分野で、早いこと、便利なこと、合理的なことが良しとされるようになった。ワインの分野でも例外でなく、トラクターなどの機械が農耕馬に取って代わり、除草剤、農薬、化学肥料が開発された。中でも画期的だったのは亜硫酸の普及ではないだろうか。


そんなワイン造りに警鐘を鳴らしたのが、土壌部生物学者のクロード・ブルギニオンだった。「ブルゴーニュのとある特級畑の土壌中の微生物数を調べたところ、サハラ砂漠よりも少なかった」との発言は世界を震撼させた。


気が付いたときには、土は踏み固められ、有益な虫たちは姿を消し、ブドウ樹は活力をなくてしまっていたのだ。ワインの味も固く乾いたものになり個性を失いかけていた。そんな過去の反省から生まれたのが「自然派ワイン」なのだ。

自然派ワインの定義

ブドウ

「自然派ワイン」という言葉を使うとき躊躇せずにはいられない。何故ならそこにはっきりとした定義がないからだ。一言に「自然派ワイン」と言っても、オーガニック、ビオディナミ、減薬農法とその流派は様々だ。


ただ、一つ言えることは、どの流派も自然に敬意を払い、生態系とのバランスに配慮した「サステイナブル=持続可能な」ワイン造りであるということだ。


また、醸造・貯蔵の段階においては、ブドウの本来の力を信じ、人がなるべく介入しないワイン造りを目指していることも共通している。


興味深いのは、ニューヨークのワインジャーナリスト、アリス・ファイアリは自然派ワインのことを 「Naked Wine(裸のワイン)」と呼んでいることだ。たしかに、ノアの時代のワインは超自然派ワインで、ブドウだけで造ったなんの添加物のないワインなのだから、この表現も頷ける。

畑の管理

殺虫剤、除草剤、化学堆肥などの合成化学薬品の使用を避けるのは、もはや基本と言ってもいいだろう。化学肥料のかわりに天然素材をベースとした堆肥や厩肥(きゅうひ)で病虫害を防ぎ、土を健康にし、ブドウの免疫力と栄養の吸収力を高める。たとえば、以前、訪ねたボルドーのワイナリーでは、ブドウから取り除いたブドウの梗を堆肥に再利用していた。


ブドウは乾燥した環境が好きだ。ジメジメした場所ではすぐにカビが生えてしまう。慣行農業なら化学的な防カビ剤を散布するが、重なり合う葉っぱを丁寧に取り除いて、通気性を高め対応する。


雑草対策には、畝間を草、樹皮の小片、麦わらで覆うことで対処したり(このことを「マルチ」と呼ぶ)、羊やガチョウを放し飼いにしたりする。放牧の場合は、ときには新芽まで食いちぎられることがあるので注意が必要だが、糞が土にとって有益なだけでなく、害虫の駆除にも有益だ。


出勤から畑の巡回まで、車でなく自転車を使って徹底しているワイナリーもある。まさに生体系との共存。エコなブドウ栽培を実践しているのだ。

醸造・貯蔵

ワイナリーでは、「何もしない」がキーワード。「ブドウが健康でパワーがあれば、あとは何もしなくても良い」と言い切る造り手もいるくらいだ。


例えば、通常はワインを造る過程で、体に害のない程度の亜硫酸が添加される。亜硫酸は酸化防止、殺菌作用のある薬剤で、近代のワイン産業の発展に大きく貢献したと言えるだろう。しかし、自然派ワイン生産者たちの間は、亜硫酸の添加はどこかご法度的な雰囲気がある。


「ヴァン・サンスフル」とは「亜硫酸を添加していないワイン」という意味のフランス語だ。「自然派ワイン(ヴァン・ナチュール)」という言葉が生まれる前から使われていた言葉で、もしかすると、造り手に話を聞けば、定義が曖昧な「自然派ワイン」ではなく、「サンスフル」という表現を耳にすることもあるかもしれない。


人間がワインを造るのではなく、ブドウが自らワインになるのであれば、培養酵母も使う必要もない。畑、ワイナリー、ブドウの果皮の野生酵母がアルコール発酵を促す。


そうして造られたワインは、弾けるような果実、柔らかく、喉元をするすると通り抜けるような魅力的な味わいになるのだ。

自然派ワインの愉しみ方

赤ワイン

上述のように自然に寄り添い、ブドウ樹そのものに耳を傾け、ゆっくりだが丁寧に仕込んだワインにはパワーがあるし、出来上がるワインも表現力豊かなのだ。年ごとのばらつきもあるかもしれないが、それもまた楽しい。


おにぎりに例えたら分かりやすいだろう。自然派ワインは、いわばコンビニで買った大量生産型のおにぎりでなく、誰かが握ったおにぎりのようなもの。大きさも違えば、硬さも違う、ひとつひとつ異なる味わい。ときには握った人の顔すら思い浮かぶ。


自然派ワインを口にしたとき、ホッとするのも頷けるだろう。

最後に

自然を愛しているから、美味しいから、体に良いかもしれないから…自然派ワインを飲む理由は様々だ。


どんな理由にせよ、ファンが増えていることは確かで、これからのワイン市場においてますます重要なポジションを占めていくことは間違えないだろう。

自然派ワインの一覧はこちら
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