ワインは「農業生産品」としての色合いが濃いお酒です。
ビールやリキュールのように一貫性を保つことが難しく、そのためヴィンテージチャートが重宝されてきました。点数で表されるのが一般的で、高得点がつけられた年は期待値が高まります。
その一方で93点と94点の違いが何かと言われれば上手く説明できず、もどかしく感じたことはないでしょうか。
今回はヴィンテージチャートを読み解くポイントとともに良い年、悪い年の違いについて解説します。
ブドウは乾燥した環境を好む
一般的にブドウは乾燥した環境を好みます。つまり「良作年」と言われる場合は、たいてい年間を通じて降雨量が少なく乾いていた年のことを指します。
その逆に生育期間中に降雨量が多かった年は「難しい年」と言われることが多いものです。
ボルドーなら2015年は年間を通じて乾いていたため、「数十年に一度のグレートヴィンテージ」と称賛されます。生育期間中に雨が多かった2004年は「難しい年」の一つとされます。
しかし実際は、ヴィンテージ評価はもう少し複雑で、降雨量が多かった/少なかっただけで片付けられるものではないようです。
ここでは有名な二つの例をご紹介しましょう。
生産者の悩みの種、春霜
ブドウ栽培の脅威として有名なのが春霜です。とくにブルゴーニュ地方やシャンパーニュ地方のような冷涼な大陸性気候では生産者の悩みの種となっています。
温和な海洋性気候のボルドー地方でも、ブルゴーニュほど頻繁でないものの霜害を被ることがあります。
霜はだいたい5月上旬まで降り、新芽を枯らしてしまいます。たとえ新芽が台無しになったとしても2番目の芽が出てくるのですが、その品質は新芽には及びません。
安定した生産量の確保と品質維持のためには霜害に遭わないのがベストなのです。
暖冬の場合はブドウ樹の生育サイクルが早まり、発芽のタイミングも前倒しになるため、霜害に遭うリスクが増えるのが一般的。春霜が降った年は、生産量が少ないのも特徴です。
夏から収穫に向けての降雨
開花から結実を経た後、ブドウ樹はドラマティックに変化します。
緑色で固いブドウの実が色付くと同時に、成熟が進み、柔らかく甘いブドウになっていきます。このシーズンが多雨になると、厳しい年になることが予想されます。
ブドウにカビが生えたり、肥大化現象(簡単に言うと水っぽいブドウができること)を起こしたりしてしまうため、挽回しづらくなるからです。
逆に雨がちなヴィンテージでも、夏から収穫シーズンの間だけでも乾いていれば、「最悪の事態を避けられた」と生産者は胸をなでおろします。
赤、白ワインで異なるヴィンテージ評価
一言で「良作年」といっても、赤ワインと白ワインといったタイプによって異なります。
「酸が命」の白ワインはひんやりとした天候が良いわけですし、「タンニンが命」の赤ワインにとっては、しっかりとブドウが成熟できるような乾いた天候であることが望まれます。
例えばボルドーの2011年がその良い例でしょう。夏季に雨が多かったため、赤の評価は平均的な一方、白甘口のソーテルヌにおいては高評価を受けています。
国によっても異なるヴィンテージ評価
イギリスならばワイン雑誌『Decanter』、アメリカならば『Wine Spectator』などのヴィンテージチャートが有名です。
チャートの傾向には作成した媒体の好みがいくらか入っていることも加味しておく必要があるでしょう。
一般的にイギリス人ジャーナリストはエレガントなワインを好評価するため、暑すぎる年はあまり「良し」としません。
それに対して、ロバート・パーカーが少し前まで現役で影響力をもっていたアメリカでは、濃厚タイプのワインが高い評価を受けていました。そのため猛暑となった年は、アメリカ人ジャーナリストから最高評価を受けるのです。
2003年がその良い例でしょう。この年、フランスでは40度越えが続き、パリでは数百人の高齢者が熱中症で亡くなりました。
当然、ボルドー左岸でもアルコール度数の高い大柄なワインがたくさん産出されました。この猛暑のヴィンテージに関して、『Decanter』(イギリス)5点満点中わずか2点、その逆に『Wine Spectator』(アメリカ)は100点満点中95点をつけています。
さらに興味深いのはシャトー・パヴィ2003年です。この年のパヴィはアルコール度数15%を上回るパワフルなスタイルになったのです。これをイギリス人評論家ジャンシス・ロビンソンは「ポートのようだ」と0点をつけ、ロバート・パーカーは100点満点を与えました。
このように同じワインでも評論家によって真逆の判断が下されることもあるのです。
ワインライフを豊かにするために
同じフランスであっても、地方によってその年の天候は変わります。さらには上述の通りワインのタイプごと、ヴィンテージチャートを作成する国によっても異なるわけです。
そのためすべてのチャートを覚えるのはもはや困難とも言えるでしょう。
おすすめはボルドー赤の天候特徴をまず覚えることです。その後、余裕があればブルゴーニュ、シャンパーニュ…と覚える産地を増やしていくと良いでしょう。
ワインを選ぶ購入判断や、テイスティングするときの楽しみが増え、ワインライフがますます深まることは間違いありません。