地球温暖化がワインに与える影響

米国科学アカデミー紀要(Proceeding of the National Academiy of Science)に掲載された論文※によると、1979年以降気温は上がり続けており、2100年には約4度気温が上昇すると予想しています。

この論文通りに地球温暖化が進めば、ワインの世界はどのように変化するのでしょうか。

他人事ではない気候変動

「地球温暖化」という言葉が注目されるようになった1980年代後半。それ以降「あれ?最近変だな」と感じることは度々あったものの、どこか気候変動をリアルに捉えていなかったというのが筆者の本音でした。

ところが2018年8月、事件は起きたのです。アスファルトを歩いていただけなのに靴のラバーソールが高温で剥がれてしまいました。(筆者の名誉のために言っておくと、決して安価な靴を履いていたわけではありません)。

ニュースによればヨーロッパでも記録的な猛暑を記録しており、イギリスでは42年ぶりの熱波、フランスでは史上2番目の暑い夏となっているというのです。

もはやこれは「他人事ではない」と感じた瞬間となりました。

深刻化する地球温暖化

2017年にカリフォルニアで起きた大規模な山火事は記憶に新しいことでしょう。1か月後に鎮火されましたが、ナパ、ソノマ、メンドチーノといった銘醸地を中心に約4万haが被害に遭いました。

さらに2019年、オーストラリアで発生した山火事では、炎は止まるところなく6か月間も燃え続けたのです。カリフォルニアやオーストラリアのように乾いた場所では、山火事は典型的な天災として挙げられます。

しかし年々その頻度と規模が大きくなっていることはもはや「気のせい」とは言えないでしょう。地球温暖化の加速を感じる一つのシグナルでもあります。

ヨーロッパでは干ばつや霜害の被害も深刻化。霜は生産者にとって脅威の一つとなっています。特に地球温暖化により萌芽がこれまで以上に早まっており、芽吹いたタイミングで霜が降りたときの被害は計り知れないものです。

またドイツではこの冬、アイスワインが数軒でしか産出されなかったというレポートもあげられています。類似ニュースは2010年代以降たびたび届けられており、地球温暖化が加速していることを示す重要な手がかりとなっているのです。

地球温暖化に立ち向かう

このような状況下で、見直しが迫られているのがサイトセレクションと品種選択です。

基本的に灌漑が禁止されているヨーロッパでは、涼しい畑の開発は急務となっているようです。当然、ブドウ品種の再検討も必要でしょう。

アルザスではゲヴェルツトラミネールなどの白ブドウ品種に関して「糖度と生理学的熟成のバランスをとるのがもっぱら難しくなった」というのが悩みで、なかには実験的にシラーを植樹し始めた生産者もいるのです(この場合、AOCの規定では認められていないので、「ヴァン・ド・フランス」での出荷となります)。

AOC規定が変更され、新たな品種使用が認められた例もあります。2019年、AOCボルドーの認可ブドウ品種に以下の7つが加わりました。

黒ブドウ品種:トリーガ・ナシオナル、ヴィナーホ、マルセラン、カステ、アリナルノア
白ブドウ品種:アルバリーニョ、プティマンサン

トリーガ・ナシオナルはポルトガルのドウロ地方で、アルバリーニョはスペインのガリシアで有名なブドウ品種でもあります。

伝統と土地の約束を大切にするフランスでこのようなダイナミックなAOC規定の変更が行われたことは衝撃で、地球温暖化への各産地の本格的な「備え」を知ることになりました。

温暖化がプラスとなっている産地

その一方で地球温暖化の恩恵を授かっている産地もあります。そのほとんどが冷涼地と言えるでしょう。

シャンパーニュ地方では、今のところ気候変動はおおむね歓迎姿勢のようです。ルイ・ロデレールではこれまで10年に数度しか生産することができなかったヴィンテージ・シャンパン「クリスタル」が2002年から2009年までは毎年リリースされています。

ドイツではアイスワインの生産は不調なものの、高品質な赤ワインが安定的に産出できるようになりました。特にピノ・ノワールの評判は急上昇です。

イギリスではスパークリングワインのみならず、スティルワインへの期待も高まり、ノルウェーやフィンランドなどの北欧にも畑は拡充しています。

また、北米の冷涼産地でもその広がりは目を見張るものがあり、ニューヨーク州では新AVAの設立が目覚ましく、ほぼ毎年その地図が塗り替えられています。ワイナリー軒数も、2017年には約400軒だった生産者が翌年には約600軒へと急増しています。

少し前までは「不可能」、「向かない」と打ち捨てられていた土地が徐々に適地にシフトし始めているのです。

まとめ

研究者たちが予測するように地球温暖化が今後も進むなら、特に警戒が必要になるのは温暖地でしょう。涼しい畑の開拓、品種の変更の他にもキャノピーマネジメントの工夫、もしくは過熟したブドウを取り除くための丁寧な選果が必要です。

ヨーロッパならば法律変更など急速な判断が迫られています。実際EUでは2009年に減アルコールが認可されたのです。

追い風となっている冷涼地では、これまで人類が習得してきた最新の栽培、醸造、貯蔵技術を生かしたワイン造りが期待されます。

ワインは自然と共存した酒です。この気候変動にいかに対応するか、まさに世界中で叡智が試されているのです。

参考文献

※Diversity buffers winegrowing regions from climate change losses.I. Morales-Castilla, I. Garcia de Cortazar-Atauri, B. I. Cook, T. Lacombe, A. Parker, C. van Leeuwen, K. A. Nicholas, and E. M. Wolkovich, Proceedings of the National Academy of Sciences 27 January 2020DOI: https://www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.1906731117