シャンパーニュのテロワールを識る

「私は二つの時にしかシャンパーニュを飲まない。恋をしている時と、してない時。」シャネルの創始者のココシャネルの名言です。

ナポレオン、ポンパドール婦人、マリリン・モンロー、オスカー・ワイルドなどの数々の著名人の言葉にもシャンパーニュ愛を知ることができます。いつの時代もシャンパーニュは世界中を魅了し歴史を彩ってきたのです。

このように素晴らしいワインが生み出された背景の一つには、シャンパーニュ地方の多様なテロワールの発見と理解があったからではないでしょうか。

冷涼×傾斜×白亜

シャンパーニュはパリから140㎞東に位置するフランス北限のワイン産地です。地方名でもあり、この地方全体で造られる発泡性ワインのことを「AOCシャンパーニュ」と呼びます。

「華やかでゴージャス」そんなイメージからは想像がつかないほどシャンパーニュ地方における栽培作業は過酷です。その理由はひとえに冷涼な大陸性気候のためでしょう。

例えば冬の凍結、春霜は栽培者たちの悩みの種です。最も脅威となるのが春霜です。

ひとたび霜で芽がやられれば収量低減になるばかりか、品質低下につながるからです。この被害を最小限に抑えるため、霜の影響を受けにくい傾斜地に伝統的には畑が開拓されてきました。

また、白亜質が中心の土壌も特徴的です。白亜質は雨の後に水はけが良く、乾いた時期には水分を蓄えることができるからです。

この「冷涼×傾斜×白亜」というテロワールの組み合わせが功を奏し、他国を追随させない発泡性のワインを生む理想的な土地となっているのです。

シャンパーニュ地方の五つの地区

シャンパーニュ地方には五つの地区があります。

中でも重要な地区はランスとエペルネの街を中心に広がる、モンターニュ・ド・ランス(Montagne de Riems)、ヴァレ・ドゥ・ラ・マルヌ(Vallée de la Marne)、コート・デ・ブラン(Côte des Blancs)です。

①モンターニュ・ド・ランス地区

フランス語の「モンターニュ」は「山」を意味しており、その名の通りランスとエペルネの間には濃い緑の山が位置しています。ブドウ畑は山の裾野に北から時計回りでぐるりと約半周広がります。

この地区ではピノ・ノワールの栽培がメインです。ランスに軒を構える造り手たちがピノ・ノワールを中心としたシャンパーニュ造りを得意としているのはこのためです。交通が発達していなかった時代、のちに紹介するコート・デ・ブランからシャルドネを入手するのは困難だったからでしょう。

この地区を代表する村にヴェルズネー(Verzenay)やヴェルジー(Verzy)が挙げられます。これらの村は北向き斜面に位置するため、酸が高く、デリケートなベースワインとなります。

②ヴァレ・ド・ラ・マルヌ地区

フランス語の「ヴァレ」は「渓谷」を意味します。直訳の通りマルヌ川沿いの傾斜地にブドウ畑が広がります。

この地区の最大の問題点は霜です。渓谷は空気の循環が悪く、霜が溜まりやすいため早熟な品種には向きません。そこで選ばれたのがムニエです。ムニエは芽吹きが遅いために霜の被害に遭いにくいため、この地区全体の80%を占めています。

この地区で最も名声が高いのがアイ(Aÿ)村です。アイはマルヌ川の北岸に位置し、南向きの急斜面が特徴です。川の保温効果・南・急斜面といった三拍子が揃い霜害の被害にあいにくいことから、この地区はムニエではなくピノ・ノワールの聖地となっています。

アイのピノ・ノワールは力強くストラクチュアのあるベースワインになり、前述のヴェルズネイやヴェルジと対極のスタイルとして語られます。映画「007」でジェームズ・ボンドが愛飲することでも知られているボランジェもアイのピノ・ノワールを贅沢に使用していることで有名です。

③コート・デ・ブラン地区

エペルネから南北に連なる丘陵が「コート・デ・ブラン」地区です。名前の「白い丘陵」の通り白ブドウのシャルドネがメインとなっています。東もしくは南東向きを向きの斜面に位置しており、どことなくブルゴーニュのコート・ドールを彷彿させる風景とも言えるでしょう。

東もしくは南東向きにアドバンテージがあるのは、朝陽がダイレクトに差し込むためです。一般的に霜はひんやりとした朝方に降りるため、光が当たれば深刻な被害を免れることができるからです。

有名な村がいくつか並びますが、中でも名声が高いのがクラマン(Cramant)、アヴィーズ(Avize)、メニル・シュール・オジェ(Mesnil sur Oger)です。

石灰が中心といってもその色はわずかに異なり、クラマン=茶色、アヴィーズ=オレンジ、メニル・シュール・オジェ=灰色がかっています。村ごとの異なるスタイルがすべて土壌に起因するとは断言できませんが、クラマン=バランス、アヴィーズ=ボディ、メニル・シュール・オジェ=鋭い酸とミネラル…と比べれば個性が光ります。

その証ともなるワインはサロンではないでしょうか。サロンは若いうちは固く厳めしいことで知られていますが、メニル・シュール・オジェのブドウだけを使用しているのです。

テロワールを感じることは最大の楽しみ

最近ではテロワールの個性をより正確に引き出すため、この厳しい北限の地にあって、ビオディナミにチャレンジする生産者も増えています。「クリスタル」で有名なルイ・ロデレールもそのひとつです。

シャンパーニュで乾杯するとき、蔵がどこにあるのか、どこの村のブドウを中心に使っているのか、自然派なのか…テロワールを思い巡らせながら飲めば、より一層、目の前に注がれたワインに対して慈しみが増しそうです。テロワールを感じることはワインの最大の楽しみ方なのです。