シャトー・ムートン・ロスチャイルドが格付け1級に昇格した理由

誰もが認めるメドック1級シャトー「シャトー・ムートン・ロスチャイルド」。そのムートンを擁するのがバロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド社です。

シャトー・ムートン・ロスチャイルドにおいてロスチャイルド家の系譜が始まるのは1853年のこと。しかしダイナミックな変革がもたらされたのは、1922年フィリップ・ド・ロスチャイルド男爵にバトンが引き継がれてからでした。

当時2級に甘んじていたムートン。しかしフィリップ・ド・ロスチャイルド男爵の見事な改革と周囲との調和で、1973年には1級昇格を成し遂げました。この昇格はメドックの格付けが始まって以来のことで、後にも先にも例はありません。

その背景には品質の高さだけなく、フィリップ・ド・ロスチャイルド男爵がボルドーワイン全体の品質向上に大きく貢献したことが考えられます。

今回は、そんなシャトー・ムートン・ロスチャイルドが1級に昇格した理由について迫ります。

その1:元詰め運動の旗振り役となった

今では当たり前になったシャトーでの元詰め。しかし20世紀前半においては、ボルドーの格付け生産者といえども自ら瓶詰めを行っていませんでした。

ワインは樽でネゴシアン(ワイン商)に売られ、ネゴシアンが一定期間熟成させたのち瓶詰めを行っていたのです。

このことにフィリップ・ド・ロスチャイルド男爵はいち早く疑念を持つようになりました。「不正が入り込む余地があるのではないか」、「生産者は自分で瓶詰めするべきではないか」と誰よりも早く声を上げ、1級シャトーに「生産したワインは樽で販売せず、全て自社で瓶詰めしよう」と声をかけ始めました。

この結果、1972年以降、格付けシャトーでは元詰めが義務付けられるようになったのです。このことを後に「元詰め運動」と呼ぶようになりました。

その2:ブランドワインの第一人者

1930年、ボルドー地方は歴史的な悪天候に見舞われました。不作のブドウを使って「シャトー・ムートン・ロスチャイルド」の名で瓶詰めすることに懸念を抱いたフィリップ・ド・ロスチャイルド男爵は、AOCボルドーでワインを出荷することを決定します。このとき誕生したのが「ムートン・カデ」です。

カデは「弟分」を意味しており、気軽に毎日楽しめるムートン直系のワインであることを意味しています。

今では世界150か国以上に出荷する一大ブランドワインとして成功し、ワインカンパニーを支える屋台骨となりました。

現在、多くのメドック格付け生産者がこのようなブランドワインを産出しており、ボルドーワインに経済的な意味で大きなインパクトを与えたことは間違いありません。

その3:ワインとアートの融合

最後にフィリップ・ド・ロスチャイルド男爵の功績に挙げられるのがワインとアートの限りない「親和性」を世界にアピールしたことです。

美術品の管理も積極的に行いました。事実、シャトー・ムートンには美術館が併設されており、アジアから伝えられたと思われる異国情緒あふれる陶器や織物などが展示されていて、シャトーを訪問すると鑑賞することができます。

特に毎年変わるアートラベルはあまりにも有名です。この取り組みは1945年から始まっており、ピカソやシャガールなど名だたる画家たちが協力しています。多くの生産者がワインとアートの融合に深いインスピレーションを受けたことでしょう。

昇格の背景にあった社会貢献

このようにバロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド社のワイン造りはボルドー地方全体の品質向上に大きく貢献を果たし、その功績は今も引き継がれています。

1級昇格の背景にはムートンのクオリティの高さだけでなく、こういった社会貢献があったことは否めません。

以上が、シャトー・ムートンが1級に昇格した理由ですが、他にもバロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド社の柔軟で豊かな発想と努力の結晶ともいえるワインがありますので下記に紹介します。

ダルマイヤック(メドック5級)

「バロン・フィリップ社の三男」とも呼ばれます。

畑はシャトー・ムートンの隣に位置しており1933年にバロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド社が取得しました。

同社が所有する格付けワインの中で最も若いうちから楽しめるワインです。

クレール・ミロン(メドック5級)

カップルがダンスしているラベルがあまりにも有名です。

1970年にフィリップ・ド・ロスチャイルド男爵が購入以降、右肩上がりに品質向上しています。

最近では高密植化された畑の耕作向けに設計された多目的電動ロボット「TED」を導入して世界から注目されています。

エール・ダルジャン

シャトー・ムートンの造る白ワインエール・ダルジャンは「銀の翼」の意味を持ちます。

霜害で大惨事を被った1956年以降、白の生産量は激減しますが、1991年に復活を遂げました。

ソーヴィニヨン・ブラン、セミヨン、わずかなミュスカデルで構成されており、わずかなマロラクティック発酵も行います。(普通はボルドーの白はマロラクティック発酵を行いません)

シャンパーニュ・バロン・ド・ロスチャイルド

バロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド社、シャトー・ラフィット・ロスチャイルドを所有するドメーヌ・バロン・ド・ロスチャイルド社、シャトー・クラーク・ロスチャイルドを所有するバロン・エドモンド・ド・ロスチャイルド社といった3社が手を結んで生産しています。

2009年の発売以来、年々注目が集まっています。

オーパス・ワン

カリフォルニアの名手ロバート・モンダヴィとのジョイント・ベンチャーで始めたのがこのオーパス・ワンです。

ワイナリーはオークヴィルAVAに位置し、ファースト・ヴィンテージは1979年。

ムートン同様の高密植、光学選果台、グラヴィティフローなど高い技術でワイン造りが行われています。

アルマヴィーヴァ

チリ最大のワイナリー、コンチャ・イ・トロとジョイント・ベンチャーでスタートしました。

マイポ・ヴァレーの中でも最上級の畑プエンテ・アルトのブドウが用いられます。

ファースト・ヴィンテージは1996年。こちらも光学選果台やグラヴィティフローなど高い技術が用いられています。