自然派ブルゴーニュを語るうえで、欠かせない造り手のひとり、フィリップ・パカレ氏。そのフィリップ氏の長男、レノ・パカレ氏が2023年に自身の名を冠したネゴシアンとして立ち上げたのが「メゾン・レノ」です。レノ氏が大切にしているのは、「技術より自身の感性を信じること」「人工的なものよりもピュアさ」、そして「テロワールの表現と味わいの安定」。ドメーヌ・パカレの哲学を受け継ぐ次世代の担い手として、100%全房発酵、醸造中の亜硫酸無添加などを行い、自然なスタイルを貫いています。

フィリップ・パカレ氏の長男として生まれ、幼い頃から自然派ワインの現場を間近に見て育ったレノ・パカレ氏。イタリア、トスカーナ州モンタルチーノでの研修やストラスブールでのビジネススクールでの学びを経て、父のドメーヌで4年間実務を経験。2021年にボーヌの醸造学校でブドウ栽培と醸造の資格を取得し、2023年に自身のネゴシアン「メゾン・レノ」を立ち上げました。

「父はまだまだ元気ですが、いつか必ず世代交代の時が来る。その時までに、周囲から信頼される実力を身につけたいんです。」と語るレノ氏。最高峰のワイン造りを間近で学べる環境がある中で、父の下で修行を続ける選択肢もあったはずですが、あえて自立の道を選びました。

シャサーニュ・モンラッシェの共有ワイナリーを拠点に、野生酵母による全房発酵や醸造中の亜硫酸無添加のスタイルを実践。限られた環境でも最大限テロワールを表現する姿勢は、若き造り手として高く評価されています。ピュアでエレガントなブルゴーニュを体現する注目の新星です。

父フィリップ・パカレ氏が行うのは、自社で耕作を請け負い、契約農家の畑からブドウを収穫する「ミクロ・ネゴシアン」スタイル。一方で、レノ氏はまだその体制を整えるには至っていませんが、オーセイ・デュレスやサントネイといった、ボーヌ近郊の比較的手頃な産地から、品質の高いブドウを厳選して購入、醸造を行っています。

醸造の場は、同じような若い造り手が集まるシャサーニュ・モンラッシェにある共有ワイナリー。体育館ほどの広さのスペースに8人の生産者が集い、設備をシェアしながらそれぞれのワインを仕込んでいます。限られた環境の中で、自らの理想を一歩ずつ形にしていく。レノ・パカレ氏の挑戦は、まさにここから始まっています。

メゾン・レノでは、父フィリップ氏とほぼ同じ醸造法を取り入れながらも、共有ワイナリーという限られた設備環境の中で工夫を凝らし、最大限の品質を追求しています。ブドウは100％全房発酵。醸造中は、ワインの味わいに関わる野生酵母の働きを生かすために一切の亜硫酸添加は行わず、澱引き後または瓶詰め直前に最小限のみ使用します。

また、白ブドウの圧搾には一般的には長い約3時間かけて行います。より理想に近づけるため、時にはフィリップ氏の高性能なプレス機を借り、圧搾したジュースを運んで醸造を行うことも。また、木樽もフィリップ氏が2、3年使用した樽を譲り受けて活用するなど、父のスタイルに敬意を払いつつ、自身のワイン造りを実践しています。

このようにして造られる、メゾン・レノのワインは、果実味は決して濃すぎず、あくまで繊細でエレガント。野生酵母由来の複雑な香りと、口当たりのやわらかさ、じんわりと染み入るような旨みが特徴です。全房発酵によるしなやかなタンニンと、芯の通った酸が心地よい余韻を生み出し、飲み心地の良さが際立ちます。

レノ・パカレ氏が目指すワインは、その土地の個性、テロワールを真っすぐに映し出すピュアな味わい。添加物を極力排除し、野生酵母の力を最大限に生かすことで、年ごとの土壌や気候の違いをありのままに表現しているのです。