ジュヴレ・シャンベルタンに本拠地を置くロシニョール・トラぺは、ジュヴレ・シャンベルタンでも名高い区画の持ち主として知られた、ルイ・トラペの分割により誕生したドメーヌ。16世紀からジュヴレ・シャンベルタンでワイン造りに携わる名門トラぺ家には、2人の子供がいました。ルイ氏は2人の子供に均等に畑を相続させ、長男はジャン・ルイ・トラペを、ロシニョール家に嫁いだ娘は夫ジャック氏と共にドメーヌ・ロシニョール・トラペを始めました。ロシニョール・トラペとしてのファースト・ヴィンテージは1990年。現在はジャック氏の2人の息子、ニコラ氏とデイヴィット氏がドメーヌを運営しています。所有する畑は約13ha。ジュヴレ・シャンベルタン村に3つの特級畑、プティ・シャペルを含む5つの一級畑、そしてボーヌやサヴィニー・レ・ボーヌにも畑を所有し、全14銘柄を生産しています。 彼らはフランスのトップソムリエ達から熱い支持を受け、多くのミシュラン星付きレストランにオンリストされる実力派。こだわりのビオロジック(有機農法)で生み出すワインは、ブドウ本来のピュアな果実味、そして旨味がじわじわと広がる心温まる優しいスタイルで、これまで生粋のブルゴーニュファンから愛されてきました。彼らのワインはワイン・アドヴォケイト誌において、「年数を経ると共にミネラル感がしっかりと現れ、テロワールの特徴が際立つ理想的なスタイル」と高い評価を受け、近年多方面から注目を集めています。
ロシニョール・トラぺのワイン造りにおいて最も注目すべき点は、徹底したビオロジックによるブドウ栽培。1992年からリュット・レゾネを採用し、1999年からは徐々にビオロジックへ移行。現在ではほぼ全てでビオロジックを実施し、一部ビオディナミも取り入れています。具体的な内容の一例としては、害虫駆除のための農薬や化学肥料は用いず、植物のエキスを樹にかけたり、土壌に牛の骨を撒くなど自然の物質から生成された調合剤を散布して生物の潜在的な力を引き出し、土壌に活力を与えブドウを育てるという農法をとっています。 ニコラ氏曰く、「ビオロジックの導入によって以前より、ブドウの粒は小さく、葉は分厚く光沢感がより強く見られるようになった。」とのこと。農薬を使った場合、ブドウの色が濃くなることが多いので、ビオロジックを実践したことで、「ブドウが本来あるべき姿に戻った。」と強調しています。このような徹底したブドウ栽培により、ロシニョール・トラぺのワインは、現在フランスの公的な認証であるエコセールや有機農産物認定の「AB認証」を取得。またルロワやシャプティエなどが加盟するビオディナミ実践グループ「ビオディヴァン」にも加盟しています。
ドメーヌが所有するブドウの特徴は高樹齢であること。最も古いものになると樹齢100年にも及びます。ブドウの収穫は全て手摘みで行われ、選果は収穫時と選果台で2回行い、除梗率はヴィンテージによって変更しています。発酵前浸漬をした後、毎日テイスティングを行いながらタンクで約15~25日間のマセラシオンを実施。その後、トロンセやベルトランジュなどの中央フランス産の木樽を使用して14~18ヵ月間熟成させ、無清澄・無濾過で瓶詰めを行います。 こうして丁寧に造られるワインは、エレガントな香りと底から湧き上がるような自然の力強さを感じる、ふくよかで深みのある味わいが特徴。繊細で豊富なミネラルに加え、美しく長い余韻を感じます。 元々名高い区画の持ち主として知られるルイ・トラぺの畑を譲り受けたことから、テロワールの持つポテンシャルの高さは十分。そこにビオロジックによる土壌活性化のおかげで、ブドウ本来の旨味が詰まった味わいを愉しむことができるのがロシニョール・トラぺの醍醐味です。「私たちはブドウ栽培農家だから、まずは良いブドウを造ることが最も大事なことなのです。」と語るデイヴィット氏。何よりも畑での仕事を最優先に考える職人気質で誠実なワイン造りは、そのままワインの味わいへと現れているのです。