「ヴァン・ミル」はジャン氏が手掛けるブティックワイン(ブドウ栽培からワイン醸造までを手がける小規模生産者が造る高品質なワイン)。平均年産本数は僅か約4,000本、しかも素晴らしい出来の年にしか発売されないという稀少銘柄です。ボルドーの最上級AOCワインに匹敵するような、唯一のAOCボルドー・シュペリュールを造りたいと思っていたジャン氏。その理想のワインを造るため、畑はポムロルに程近いリュゴンに位置する、シャトー・クロワ・ムートンの畑の中でも風通しの良い一画を選んで、2000年に初めてメルロを植樹しました。
この少々変わった「ヴァン・ミル」という名前は日本語にすると「20,000」。これはジャン氏がブドウの樹を1ヘクタールあたり20,000本という驚異的な数字まで高めて栽培していることから付けられています。最少株密度が1ヘクタールあたり4,000本のボルドーにおいて、20,000本は想像を超えた数字。通常株密度を高めると、ブドウの樹が養分や水を求めて競い合い、地中深く根を張ることから一本あたりになる房の数が減り、凝縮感や複雑性を持った上質な果実が実ると言われています。しかし株密度を上げすぎると、今度はブドウ畑に機械が入ることができなくなり、ブドウ栽培は全て人の手によるものとなってしまうのです。
作業にかかる時間やコストを考えたら避けてしまいそうなものですが、尽きない情熱と探究心から、この前代未聞の「密植」に果敢に挑戦したジャン氏。雑草の成長を計画的にコントロールし、ブドウの休眠期とヴェレゾン(果実の色づき)が始まる時期に剪定、ブドウの葉は両端を刈り込んで、十分な風通しと日照を得られるように管理するなど、人が歩くのも狭いブドウ畑で想像もできないような努力を重ねました。そして遂に、素晴らしいヴィンテージであった2005年に初めての収穫。そのメルロから完成したワインは驚くほど凝縮された果実味を持ち、フィネス、表現力、リッチさを備えた完璧なバランスの仕上がりでした。こうして、植樹から実に7年の歳月を経て、ジャン氏の飽くなき探求心の末に「ヴァン・ミル」は誕生したのです。
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