文学ワイン会「本の音 夜話(ほんのね やわ)」小説家・上田岳弘さん登場!

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レポート
公開日 : 2017.9.10
更新日 : 2018.10.22
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先日、第13回文学ワイン会「本の音 夜話」が開催されました。いつもの会場であるワインショップ・エノテカ 銀座店 カフェ&バー・エノテカ・ミレを飛び出し、神楽坂la kagu(ラカグ)で出張篇としての開催です。小説家の上田岳弘(うえだ・たかひろ)さんにゲストでお越しいただきました!

最新小説『塔と重力』について。

ナビゲーターは山内宏泰さん。まずは7月末に刊行されたばかりの最新小説『塔と重力』について質問されました。『塔と重力』ですが、初校の段階で編集者に「この作品は商業出版の限界を突破している」と言われたのだそうです。 「それは作品の中にも出てくるセリフですね。当初はもっと尖っていたんでしょうか?」と山内さんの質問に、 「だいぶ尖ってましたね。幻想シーンが2ヵ所あるんですが、そこがかなり長くて、もっと訳がわからないかんじ。そういうのはいずれ長編でやってください、と言われまして」と上田さん。
上田さんが執筆で大切にしていることのひとつとして、“書いてみて気持ちいいかどうか”、があるそうです。
「書いてみて気持ちいいかどうか。それが出版されるか、されないかは、書いているときには関係ない。こう書いたほうが気持ちいいという方向で書きます。そうして終わってみると、『塔と重力』はいつも1日1,500字ぐらいで書くのを、ペースを上げまして4,000字で書きました。僕は毎日、朝起きて5時半から8時ぐらいまでに書いています。2時間で4,000字書くのを計算すると、1.8秒に1文字なんですよ。1.8秒に1文字は尋常じゃないペースです。あまり考えてないんですよ。脳みそとパソコンが直結して、ずっとフルスピードで書いている。何を書いたかもあまり覚えてない。変換も入れてそれなんでだいぶ速い(笑)まあ、結果修正しまくるんですけどね。ずっとパチパチやって、26日経つとできあがっているんです」
ちなみに4,000字にこだわられたのは、もともと1,500字でのペースで書かれていたところを、小説家の高橋源一郎さんが1日で2,000字、村上春樹さんが4,000字執筆していると聞いたからだとか。 「実験結果、商業出版を超えてしまいました(笑)」
 
上田岳弘さんのデビュー作は、2013年に第45回新潮新人賞を受賞した『太陽』。デビューする前から小説を書いており、視点や方向性を変えるためパリに取材に行かれたことが作品に反映されています。初夏のパリで、人々がお昼からロゼワインを楽しんでいる光景が印象に残ったことから、リクエストに併せて ル・ロゼ・ド・ムートン・カデをサーヴさせていただきました。

いまの時代、“神ポジション”を誰もが実感できるようになっている。

今回の『塔と重力』ではSNSが物語の中枢に置かれており、Facebookやtwitterが頻出します。「これまでの上田岳弘さんのSF的な作品からいくと、Facebookというのはちょっと意外なかんじがします。SNSを作品の柱に取り入れたのはどうしてでしょうか?」
「Facebookやtwitterは現代性を象徴している気がするんですよ。ツールの発展によって精神の変容というか、世界の見え方も変わっていく。例えば近くに住んでいるけどメールはしない、でも何かしらのきっかけでお互いにFacebookで繋がって、それが出会いに繋がり、そこから縁が出てくる。そういった意味で人生そのものがちょっとしたきっかけで変わってくる、ということがあります」
 
上田さんはそこに一物一価の法則も見ています。
「一物一価と同様、Facebookの充実した人生、充実したライフスタイル、そういったものがある意味画一化しています。見せ方が決まっている。多様性があり、誰でも発信できるというのが、逆に画一性に向かっている。アンビバレントなものをかんじますね。非常に面白いです」
 
上田岳弘さんの作品に一貫している、すべてを俯瞰するようなマクロな視点、これはどのようにして上田さんの中で形成されたのでしょうか。
「それは自分でも不思議なんですが、昔から家族が多くて、4人きょうだいで一番末っ子だったので、いろんな人の悲喜こもごもを見ているわけですよ。実体験でいうと、上の3人は子ども部屋で寝るんですが、僕は両親と一緒に寝るんですね。上3人はテレビを観るのは8時まででしたが、僕は親の寝室で寝ていたのでずっとテレビを見ていました。それで深夜になると世界の悲惨な出来事が流れていて、あ、これは僕がどうにかしないといけないと(笑) よく上の3人が喧嘩をしていたので、この喧嘩がもしかしたら世界の悲劇と結びついているのではなかろうかと。きょうだいの喧嘩を止めるためには、世界を平和にしないといけない。何もできないなりに、それらが繋がっていったというのがあります」
 
『塔と重力』に出てくる“神ポジション”という言葉は、上田さんのマクロ視点を象徴したまさに名ワードです。
「小説には一人称と三人称がありますが、(“一人称・主観視点”ではなく、一人称ですべてを把握した)“一人称・神視点”というふうにやってみればどうなるのだろうかと。そこでデビュー作『太陽』では、“一人称・神視点”を思い描きながら書いてみました。
神というと何でもわかってしまう存在。Facebookでは個々人の体験や感情が何でもわかってしまうから、“一人称・神視点”的な見方が今やふつうに実感できるようになっています。そこから『塔と重力』の“神ポジション”という言葉もすごく現実的に聞こえる。いまの時代、“一人称・神ポジション”というのを誰もが実感できるようになっているのではないでしょうか」
 
描かれるモチーフのみならず、その視点や表現までも「いま」がいっぱいに詰まった上田さんの現時点での集大成、『塔と重力』のお話をはじめとして、創作秘話や上田さんのマクロな視点の秘密などをたくさんお話しいただきました。お客様から寄せられたバラエティ豊かな質問にも、すべてにしっかり答えていただいた上田さん。最後には、9月7日発売の『新潮10月号』から新連載『キュー』(※)をスタートされるとのホットなニュースも飛び出しました!こちらも楽しみです。
上田さんを車座になって囲みつつワインを飲むアットホームな会は、上田さんのユニークで楽しいトークに魅了される一夜となりました。
※新連載『キュー』は、文芸誌『新潮』のほか、「Yahoo! JAPAN」のスマートフォン向けブラウザで作品を読むことができます。 >>ネット版『キュー』連載特設ページ  https://bibliobibuli.yahoo.co.jp/q/ 
最新小説『塔と重力』(新潮社)定価1,600円+税 
ル・ロゼ・ド・ムートン・カデ/ バロンフィリップ・ド・ロスチャイルド(フランス ボルドー) 1,600 円 (1,728 円 税込)
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