ワイン産地の特徴を何となくでも覚えておいたら、自分好みのワインを選べるようになるかもしれない……ということで、前回はいわゆる旧世界のワイン産地であるフランス、イタリア、スペイン、ドイツのワインの特徴をご紹介しました。
ワインは“旧世界”にとどまらず、現在ではヨーロッパ以外のワイン新興国である“新世界”でも多くのワインが生産されています。というわけで、今回はアメリカ、チリ、オーストラリア、そして日本のワインの特徴について、ご紹介したいと思います。
研究に研究を重ねてワインを造るアメリカ
アメリカでは西海岸のカリフォルニア州を中心にワインが造られています。その北のオレゴン州、アイダホ州、ワシントン州、北東部のニューヨーク州でも多彩なワインが生み出されています。
伝統的な醸造方法や土壌に即したワインを造るヨーロッパに対して、アメリカは研究で出した明確な数字を頼りにワイン造りをしているという一面があります。
例えば、カリフォルニアのアメリン博士とウィンクラー博士が定義したワイン産地区分では、算出した積算温度を世界のワイン産地の気候に当てはめて、どの品種がその産地に適しているかを区分してまとめ、ワイン造りの発展に大きく貢献しました。
また、ブドウ栽培とワイン醸造が分業されていることが多いため、研究や技術を新しく導入しやすいという特徴があります。
国内生産の9割をカリフォルニア州が占めていますが、中でもサン・パブロ湾に近いナパ・カウンティやソノマ・カウンティでは高級な赤ワインや白ワインが造られています。味わいはアメリカンオーク樽の強いココナッツ香が特徴的。ヨーロッパに倣い、上品なバニラ香のあるフレンチオーク樽を使用する生産者も多いですが、一度飲んだら絶対に忘れられないようなアメリカンオーク樽の華やかな香りは強烈で、癖になる人も少なくないようです。
そしてアメリカのワインと言えば、やはり「カルトワイン」の存在です。世界一高いワインと言えば仏・ブルゴーニュの「ロマネ・コンティ」ですが、実はヴィンテージによってはアメリカのカルトワインのほうが高値であることも。これはナパ・カウンティの大半を占めるナパ・ヴァレーを中心に生産される、希少かつ人気の高いワインに与えられた名称です。熱狂的なファンがついたことによって値が釣り上がったワインで、代表的な「スクリーミング・イーグル」の名前は耳にしたことがあるという人も多いのではないでしょうか。他にも「コルギン・セラーズ」「シネ・クア・ノン」などがあります。
テーブルワインの王様・チリ
ワインを日常的に飲みたいけれど、なかなか高くて手が出せない……という悩みを持つ人の救世主的存在であるチリワイン。ボトル1本が数百円台からあり、味もしっかりしていて日本では多くのファンを獲得しています。
また近年、チリワインが一番多く輸入されており、チリ側から見ても日本はトップクラスの輸出国となっています。
典型的な地中海気候で乾燥しており、ブドウにとってとても良い環境であるチリ。湿気が少ないゆえに、防腐剤やカビ対策の薬剤などの農薬を使用する必要が少なく、有機ワインも多く生産されています。
ワインの色味は、ヨーロッパ諸国のワインと比べて濃い傾向があります。例えばカベルネ・ソーヴィニヨンはフランスのものに比べて外観の黒味が強く味わいでは甘味が強くて、微かにミントの香りも含みます。
お手軽なワインの人気が高い一方で、近年は1本1万円以上するような高級ワインも人気上昇中です。
フランスワインだと、倍の値段がしてしまうような質の高いワインとして名高いのが「アルマヴィーヴァ」です。チリで最も有名なワイナリー「コンチャ・イ・トロ」とフランスの5大シャトーのうち「シャトー・ラフィット・ロートシルト」と「シャトー・ムートン」を手がける「バロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド」がタッグを組んで生み出したもので、アメリカ・カリフォルニアを代表する「オーパス・ワン」を意識していると言われています。
果実味やバニラ、シガーなどが特徴的な風味に加え、凝縮した味わいは非常にバランスがよく最新2015年ヴィンテージは、ジェームス・サックリングにて見事世界第1位獲得しました。
力強くコクを持ったシラーズと言えばオーストラリア
オーストラリアはワイン新興国の中でも、チリと共にワイン産業を盛り上げている存在です。
スパイシーかつタンニンが豊富で力強いコクを持つシラーがオーストラリアでは“シラーズ”と呼ばれており、断トツで一番多く栽培されています。シャルドネやソーヴィニヨン・ブランを使った白ワインの生産も盛んで、テーブルワインから高級ワインまで多く造られています。また、醸造技術の研究がめざましく技術が年々向上され、ブドウ畑の管理方法でも発展を遂げています。
産地は主に南の沿岸部に多く集中していますが、中でも南オーストラリア州はフィロキセラ禍を免れて、現在ではオーストラリア全産出量の半分を占めています。
最も有名でシラーズを主に栽培しているバロッサ・ヴァレー、リースリングやシラーズが有名なイーデン・ヴァレーとクレア・ヴァレー、最高級のスティルワインとスパークリングワインを造るアデレード・ヒルズ、そしてボルドーと似た気候で「テラ・ロッサ」という鉄分と石灰岩を含んだ特徴的な土壌でカベルネ・ソーヴィニヨンを造る南部のクナワラなど、多くの産地が点在しています。
オーストラリアで有名なワインは、やはりペン・フォールズ社の「グランジ」です。
白い背景に赤い文字でびっしり文字が書かれた特徴的なラベルは、見たことがある人も少なくはないのではないでしょうか。最高傑作のシラーズと呼ばれており、オーストラリアで初めてボルドー格付けワインに対抗できる存在だと言われたほどのものです。ココナッツ香が特徴的なアメリカンオークの新樽で18ヶ月も熟成されており、20年ほどの長期熟成を経て飲み頃が訪れます。パワフルな果実味に加え、腐葉土やトリュフの香りに圧倒されるミステリアスなこのワインは非常に人気が高く、1本のお値段が5万円を超えています。
日本料理に合う上品なワインを生み出す日本
日本は湿気が多くブドウにとってストレスの多い気候であるために、長年ワイン造りには向いていないと言われ続けてきました。しかし近年、ブドウ管理技術や醸造技術が発展し、ワイン法が制定されたことによって世界にその努力が認められるようになりつつあります。
日本のワインは、海外から濃縮果汁を輸入して国内で醸造した「国内製造ワイン」と、日本で栽培されたブドウを使用して国内で醸造した「日本ワイン」に分かれます。
日本ワインの特徴は飲みやすく上品で、ワイン慣れしていない人にも親切な口当たりであることが多いようです。近年、“旧世界”のワインに影響を受け香り高く濃厚なワインも造られるようになりましたが、甲州やマスカット・ベーリーAなどの軽くなめらかな味わいがある品種を使ったワインが、世界的にも日本ワインの特徴として認知されつつあります。
ワインはその土地の郷土料理に合うと言われていますが、日本ワインは繊細な日本料理によく合います。その理由は、日本ワインの香りが欧米のものに比べて穏やかで、品種の特徴が料理に適しているからだと言われています。香りが単純に少ないのではなく、味わいと香りのバランスがしっかりと取れているために物足りなさを感じないのが日本ワインの特徴だと言えるでしょう。
有名で人気が高いのは、世界的な賞も受賞した山梨の「グレイスワイン」や、日本ワインの父である川上善兵衛が設立した新潟の「岩の原葡萄園」、大分の「安心院葡萄酒工房」などがあります。
「安心院葡萄酒工房」の「安心院スパークリングワイン」は100%シャルドネを使用した上品なワインで、そのクリーミーで凛とした強さを感じる風味や味わいの1本です。
まとめ
ワインは世界中で造られていますが、それぞれの国には独自の個性があり、代表的な人気ワインにはその特徴が色濃く現れています。その国その国の生産者たちは、何を目指し、何に重きをおいてワイン造りをしているのか・・・そんなことを思いながらワインを飲む人は少ないかもしれませんが、特徴を踏まえて飲んでみるとおもしろい発見があるかもしれませんよ。
国別の特徴をチェックして「この国のワインは好きかもしれない」と思ったら、ぜひそのワインを手に取ってみてくださいね。