第10回 500年の眠りから覚めたブドウ“パイス”

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公開日 : 2017.11.10
更新日 : 2023.7.12
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エノテカのワインバイヤーが、ワイン界で活躍する人々をインタビューしてとことん語り合う企画「ワインバイヤーズトーク」。プロフェッショナルならではの視点で、料理とのマリアージュや最新のワイントレンドに切り込んでいきます。

第10回目となる今回は、チリのワインを語らせたら右に出る者はいないと言われるベテランワインライター、WANDSの番匠國男さんがゲスト。近年チリで注目されるブドウ“パイス”について熱く語り合いました。

目次

チリワインのことは番匠さんに聞け!

バイヤー:

最近気になって仕方がないブドウがあって・・それがチリの“パイス”なんですが。これはぜひ「チリワインのことを語らせたら日本一!」と私が思っているワインライターの番匠さんに詳しいお話を伺いたいと思って本日お呼びしました。どうぞよろしくお願いします!

番匠さん:

どうぞよろしくお願いします。

バイヤー:番匠さんは毎年チリに行っていらっしゃいますよね。

番匠さん:はい。ほぼ毎年のようにでかけてきました。近年は1年に2~3回のペースになっています。最初にチリを訪れたのは1991年の秋でした。スペインのミゲル・トーレスがチリに進出したのが1979年。ちょうど1990年初頭はチリがアメリカ、イギリスに続いてアジアへワインの輸出を始めたばかりの時代だったので、その頃のチリには昔ながらのワイン造りの痕跡がたくさんありました。この時代にチリに行けたのは幸運だったと思っています。

バイヤー:

今から26年前!その頃チリのワイナリーに行っていた日本人は数えるくらいしかいなかったでしょうね・・。それからコンスタントにチリを訪れている番匠さん、日本におけるチリワインの生き証人と言っても過言ではなさそうです。

実は私は今年6月に初めてチリを訪問したのですが、その時にチリワインにすっかり魅了されまして。中でも“パイス”というブドウを栽培している御年78歳の巨匠に出会って、以来すっかりパイスというブドウが好きになりました。本日はぜひこのパイス談義に花を咲かせたい!と思っております。

7歳の頃からパイスを育てて御年78歳!という巨匠グーメルシンダ氏。

かつてはチリの大エースだったブドウ

高樹齢のパイスの樹

番匠さん:

パイスはもともとカナリア諸島のブドウで、ミッション(伝道師)がミサのワインを造るために、大航海時代に海を渡って世界に広まったと言われています。カリフォルニアでミッションと呼ばれているのはそのためです。ペルーを超えてチリに行って、それからアルゼンチン(クリオジャ)に行った流れと、北米のカリフォルニアへ行った流れがあります。ルーツはスペインのパロミノ(シェリーに使われるブドウ)が近いと言われています。そういった意味では、一番初めに新大陸に渡ったブドウと言ってもよいかもしれません。

パイスが新大陸の風土に馴染んだのにはそれなりの理由があったと思いますね。例えば、パイスは乾燥に強いうえに、収量がめちゃくちゃ多いんです。大人の顔くらい大きさの房をたくさんつけるんですよ(笑)。

19世紀半ばになると鉱山で財を成したチリの富豪たちがフランスに出かけ、カベルネ・ソーヴィニヨンなどのボルドー品種をチリに持ち込みました。そのあと、ヨーロッパのブドウ畑はフィロキセラで壊滅状態になり、チリからワインを輸出するようになったのです。それでもパイスは1980年代まではチリのブドウの大エースでした。ところがその後、カベルネやメルロのヴァラエタルワインがたくさん売れる時代になって、チリワインは世界で評判になりました。それでパイスは量産時代を支えるブドウの役目を終えたのです。

500年の眠りから覚めたパイス

バイヤー:

それでパイスはどんどん忘れられていくようになったという訳ですね。ところが最近復活を遂げようとしている、それを象徴的するようなスパークリングがこちらのエステラード・ブリュット・ロゼです。

番匠さん:

これは、ミゲル・トーレス・チリがチリ行政から要請を受けて3年計画でタルカ大学と一緒に研究を始めたワインなんです。2009年にチリに行ったとき、トーレスで「面白いものができたから飲んで見ないか。」と言われてボトルで熟成中のサンプルを飲ませてもらったのが最初です。当初はブラン・ド・ノワールにしたり、畑やDOの違うものを造ったり、色々なサンプルを造って実験していました。ところが2010年2月のチリ地震でボトルが全部割れてしまってプロジェクトがとん挫したんです。その後2010年、2011年ヴィンテージを造ってようやく形になったのが2012年。これがファーストヴィンテージとなりました。震災の後の2年間も含め3年間研究を重ねて相当納得のいくものが出来たんだと思います。

バイヤー:

このパイス100%で造られたエステラード・ブリュット・ロゼは「シャンパーニュ&スパークリング世界選手権2016年」で伝統品種(国際品種以外)を用いたスパークリング部門のチャンピオンに。さらにチリ国内でもNo.1の栄誉に輝いており、まさにチリを代表するスパークリングワインと言っても過言ではないほど成功していますよね。

番匠さん:

現在のボトルが2014年度産のブドウを使用しているので、まだ3ヴィンテージ目にもかかわらずですね。それに3年かけてこのパイスというブドウを瓶内二次発酵のロゼスパークリングワインにしたというアイデアが本当にすごいなと思いますね~。だから私はこのワインを「500年の眠りから覚めたパイス」と名付けることにしました。

洗練されたパイス

バイヤー:

そしてこちらがパイスで造った赤ワイン「レゼルヴァ・デ・プエブロ」です。ドライファーミング(灌漑をしない)の畑で収穫したブドウだけを使用して、ボジョレー・ヌーヴォーと同じくマセラシオン・カルボニック製法で仕上げています。

番匠さん:

このパイスやカリニャン、サンソーなどのブドウは田舎くさいというか土っぽいタンニンがあって、それが個性だと思っていましたが、このように樹齢を重ねて1本の樹の収量がずっと少なくなると、意外とそうでもないですね。それにこのパイスはマセラシオン・カルボニック製法で造っているのでタンニンが軽快になっていますね。これは、パイスの中では洗練された部類に入るワインだと思います。パイスの持っているフルーツの感じが強く出ていて、口のなかではお日さまのあったかい感じがすごくあって美味しいですね。

バイヤー:

それにアルコール分は12%なんですよ。チリでこんな低アルコールっていいですね、というか世界中で、ニューワールドで珍しいですね。

番匠さん:

パイスって上手に作るとこんなふうになるんだと思わせる1本ですね、これは。

バイヤー:

番匠さんが付けた「500年の眠りから覚めたブドウ」ってなるほどと思わせるキャッチコピーですね。まだまだラスティック(粗野)な感じはあるけれども、さすがトーレス。荒っぽいタンニンを軽やかにしてフルーツ感を全面に出しているので今っぽく洗練された味になっていて、国際品種のワインを飲みなれた現代のワインラヴァーにもきっと受け入れられると思います。パイスはチリワインのルーツともいえるブドウですし、まだまだ色々なタイプのパイスワインが出てきそうでポテンシャルを感じます。番匠さん、今度は「眠りから覚めたパイスを巡るツアー」ご一緒しませんか!

番匠さん:

喜んで!

今回登場したワイン

サンタ・ディグナ・エステラード・ブリュット・ロゼ

/ミゲル・トーレス・チリ

(チリ セカノ・インテリオル)

2,200 円 (2,376 円 税込)

この商品はこちら≫

レゼルヴァ・デ・プエブロ

/ミゲル・トーレス・チリ

(チリ マウレ・ヴァレー)

1,800 円 (1,944 円 税込)

この商品はこちら≫

番匠國男さんが編集長を務める専門誌はこちら

ワイン&スピリッツ専門誌「ウォンズ」。1982年11月創刊から30年以上にわたりプロのための情報を毎月発信。客観的なデータや取材をもとに、世界のワイン&スピリッツの現状や今後にフィーチャーしています。

番匠國男(ばんしょう くにお)

ワイン&スピリッツ専門誌WANDS 編集長。フットボール観戦が趣味。週末は柏レイソルの追っかけ。海外取材の際も時間が合えばスタジアムへ出かける。

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