ワイン産業を牽引するグリーンカンパニー「トーレス」

どこか他人事のようだった「地球温暖化」という言葉が、いよいよ現実味を帯びてきたのは、ここ10年ほどのことでしょうか。

世界気象機関(WMO)によると、昨年は観測史上2番目に高温な年で、2019年を含む直近5年間と10年間の平均気温はともに過去最高に。ヨーロッパ各地で史上最高気温が更新され、フランスでは熱波によって、たくさんの人が亡くなりました。

問題は気温だけに留まりません。干ばつや大規模な森林火災、非常に激しい雨など、世界各国でこれまでにない規模の自然災害が増加しています。

今年、創業150周年を迎えたスペインのワインカンパニー「トーレス」は、そんな環境問題に取り組む、ワイン産業を牽引するグリーンカンパニーです。今回は、トーレスの環境保全に関する取り組みをご紹介します。

なぜワインカンパニーが環境保全に取り組むのか?

スペイン・リオハの自社畑(雨の少ないスペインではブドウ樹は間隔を広くあけて植えられる)

その理由は、決してイメージ戦略などではありません。ブドウ畑は自然環境に大きく依存しているため、温暖化がブドウ畑に直接的な影響を与え、ひいてはワイン生産にまで大きな影響を及ぼすからです。

この30年間で、トーレスの本拠地スペイン・ペネデスでは平均気温が1.2度上昇。ブドウの生育サイクルが早くなり、収穫が10日ほど早くなりました。霜、雹、干ばつ、熱波などの異常気象も、今まではなかったような珍しい時期に頻発するようになり、ブドウ栽培に大きなダメージを与えています。

例えば、2017年はスペイン全土に、4月という遅い時期に霜が降りてブドウ畑に壊滅的な被害を与えました。1~2月にかけての霜害は一般的ですが、4月の霜害というのは過去50年間にはなかった出来事だそうです。

プリオラートの粘岩板土壌(大変水はけがよく凝縮感のあるブドウが出来る)

一方、2019年は猛暑による干ばつの影響で、プリオラートという地域のブドウ畑の収穫量が約30%減少しました。霜と干ばつという真逆の極端な天候が、ブドウ畑を脅かしているのです。

トーレスはこのような環境の変化にいち早く気づき、地球温暖化を緩和し、その影響からワイン生産を守るために、2008年に約1,200万ユーロを投じ、環境保全プログラム「トーレス&アース」を始動。以来、毎年の利益の11%を環境保全プログラムに充てています。

トーレスは、ワイン生産を保護するために、大きく分けて3つの分野からアプローチしています。それぞれの取り組みを具体的にご紹介しましょう。

① 排出するCo2を減らす
② 大気中のCo2を減らす
③ 持続可能なブドウ栽培

排出するCo2を減らす取り組み

ワイナリーツアーで使用する電動列車

ワイナリーのCo2排出量の削減策には、再生可能エネルギーの利用や軽量ボトルの導入、二酸化炭素排出量の少ないサプライヤーとの協力などが挙げられます。

例えば、再生可能なエネルギーとして、トーレスの旗艦ワイナリーでは灯油などの化石燃料に頼らないバイオマスボイラーを利用し、ガス消費量を95%削減しています。また、18,000㎡という広大な敷地にソーラーパネルを設置し、使用電力の25%を太陽光発電で賄っているそうです。

さらに、同社が所有している車両の80%は、電気自動車かハイブリッド車を採用。ペネデスのワイナリーを訪問すると、実際にワイナリー見学ツアーは電動列車で案内してくれます。

その他に、ワイン愛好家にとって身近な話では、軽量ボトルの導入が挙げられます。

分厚くて重いボトルに入っているワインは、何となく高級なイメージが湧きますよね?しかし、実はワイン業界では以前から、過剰に重厚なボトルは運搬に大きなエネルギーが必要なため、環境に悪いという指摘をされていました。

そこでトーレスでは、このような無駄をきっぱり捨て、環境保全のためにボトルを軽量化。全ボトルの平均重量を15%減少させ、輸送に伴うCo2排出量を削減しました。具体的なところでは、サングレ・デ・トロのボトルが、540gから410gになっています。

トーレスのワインボトルは、チープだから軽いのではありません。環境に優しいから軽いのです。

大気中のCo2を減らす取り組み

トーレスにとっての関心事は、Co2の排出を防ぐことだけではありません。既に存在する温室効果ガスを減らすことにも積極的に取り組んでいます。

ヨーロッパの産地が霜害で壊滅的な被害を受けた2017年、南半球のチリでは、国家非常事態宣言が発令されるほどの史上最悪と言われる森林火災が起きたことは、記憶に新しいのではないでしょうか。これだけに限らず、2010年以降、チリでは大規模な森林火災が多発しています。

2019年、チリにもワイナリーを所有するトーレスはこのような状況を受けて森林再生プロジェクトを立ち上げ、チリ・パタゴニアの6,000haの土地に植樹を始めました。この森林は、将来的に年間1万トンのCO2を吸収可能にする予定だそうです。

一方ワイン生産の領域でも、CCR(Carbon Capture Reuse)と呼ばれる技術を開発。アルコール醸造中に発生するCo2を取り込み、燃料として再利用する研究を進めています。

持続可能なブドウ栽培

復活を遂げた古代品種ケロルの畑

しかし、どんな取り組みを行っても人類全体が変わらなければ、温暖化が止まることはありません。

トーレスは、気候変動の将来的な影響を軽減するために、ブドウ畑でもスペインの絶滅寸前の古代ブドウを復活させる活動もしています。そして、その中から干ばつや暑さに強く、将来的に気候変動の影響と戦える可能性を秘めている品種を探しているのです。

このプロジェクトで見出されたブドウは、白ブドウのフォルカーダ、黒ブドウのピレネ、ゴンファウス、モニュ、ケロルなど。特にフォルカーダは、晩熟で温暖化の影響と戦える、唯一の白品種として期待されており、単一品種のワインが少量生産されていますが、残念ながら日本には入ってきていません。

ちなみに、黒ブドウのケロルはグラン・ムラーリェスに少ない割合ですが、ブレンドの一部として使用されており、実際に楽しむことが出来ます。

まとめ

4代目当主ミゲル・トーレス氏

環境保全プログラム「トーレス&アース」は、2020年までCo2排出量30%削減(2008年比)を一つの目標にしていましたが、徹底した取り組みによって予定より早く2019年に達成されました。次の目標は、2030年までのCo2排出量55%削減だそうです。

トーレスの軽量ボトルを手に取った際は、環境問題に直面しているワイン産業のことを頭の片隅に浮かべて頂ければと思います。

サステイナブルであることは、ワインをより多く売ることには繋がりませんが、私たちは地球のためにそれをしなければなりません。

―トーレス4代目当主ミゲル・トーレス